法律豆知識(116)、裁判所の活用の仕方−旅行業関係者に向けて

  • 2007年2月17日
 今回は旅行業関係者を対象とした「裁判所の活用の仕方」を説明しよう。


<簡易裁判所の少額訴訟制度は便利>

 簡易裁判所は、金額60万円以下の支払に関する訴訟について、少額訴訟制度という特別の制度を用意している。旅行関係のトラブルは大きな人身事故でない限り、紛争の金額が小さい場合が多い。旅行関係のほとんどのトラブルは、この少額訴訟で対処できると思われる。

 この少額訴訟は、弁護士に依頼せず本人で行うことを前提にしている。弁護士を依頼するには訴額が小さすぎるため、本人でも遂行できるようになっているのだ。原則として、一回の審理で行い、判決もその日のうちに結審する。ただ、判決に不服でも控訴できないので、この点は注意が必要だ。

 少額訴訟は上述のように簡略に行うことが前提。逆に言えば、法律関係や事実関係、証拠関係が複雑で、少額訴訟に適しないとなれば、通常の訴訟に移行させられてしまう。

 旅行関係の事件は、一般にはなじみが薄い法令が問題となるため、法律関係が複雑で少額訴訟になじまないと判断されるおそれもある。そこで、関係法令を整理して裁判所に提示し、積極的に説明するという努力と工夫も必要であろう。いずれにしても、旅行関係のトラブルは、この少額訴訟制度を多いに活用し、迅速、かつ的確な解決が図られるようになって欲しい。


<通常訴訟の対策>

 少額訴訟で処理できないとなれば通常訴訟となる。訴額が140万円までは簡易裁判所で、それを超えると地方裁判所となる。通常訴訟となると、弁護士に依頼しないと訴訟遂行が大変だが、そうなると弁護士費用が問題となる。弁護士費用は、訴訟を提起する時に、着手金(手数料)が必要となり、解決すると成功報酬が必要となる。

 着手金は、弁護士会の旧基準によれば請求額に対し、300万円以下の部分は8%、300万円以上3000万円以下の部分が5%、3000万円以上3億円以下の部分が3%、3億円を超えると2%となる。

 成功報酬は、「得ることのできた経済的利益」に対し、上記の着手金のパーセンテージの2倍の率となる。つまり、8%が16%というようにである。「得ることのできた経済的利益」とは、請求する方は、獲得できた金額、請求を受ける方は、減額できた金額が対象になる。

 ただし、この旧基準は、独禁法に触れる恐れがあり、現在は廃止されている。それゆえ、各事務所で異なる基準を設けることになっているが、多くの法律事務所は今でもこの旧基準を採用している。

 少額の訴訟も高額の訴訟も、訴訟の手間は変わらない。それゆえ、訴訟を受任する最低料金を定めている法律事務所が多い。例えば、一訴訟事件では、手数料を最低30万円とするといった形だ。簡易な事件では、弁護士に依頼すると手数料が経済的利益を上回ることも多い。その結果、簡易な事件では、弁護士に依頼するのが困難となる。そこで、前述の通り、少額の事件では弁護士に依頼しなくてもすむよう本人でもできる少額訴訟制度が用意されているのだ。

 少額訴訟をするにしても、一度は事前に専門の弁護士に法律相談し、法的によく検討しておいた方がいいであろう。法律相談は、一回1万円ぐらいが相場である。なお、簡易裁判所事件では、弁護士だけでなく司法書士も訴訟代理ができることになっている。司法書士の方が、手数料や報酬が弁護士より安いことが多く、司法書士に依頼して簡易事件を遂行するのもひとつの方法だろう。


<最後に>

 日本の裁判は、一審の審理期間が平均して10ヶ月程度である。これは先進国の中では、最も裁判の進行が早い部類である。また訴訟係属後「和解」で解決するケースも多い。全体の訴訟事件の半数は、裁判所での「和解」で解決する。「和解」となれば、もっと解決は早い。

 また、「少額訴訟制度」という便利な制度があることは前述した。

 日本の裁判所は、「司法改革」の結果、一般の人が思っている以上に、使いやすい制度になっている。あとは、一般の日本人が、自分のトラブルは、自分の負担と責任で解決するという意識を持つだけである。そうなれば、裁判所の社会的役割も、もっと大きなものになるであろう。

<次回は、日本のADRの現状を説明しよう>