法律豆知識、航空私法入門(4) フライトの遅延と手荷物の損壊
<フライトの遅延による旅客の損害>
航空機の運航には、遅延(delay)が付いてまわるものだ。しかし、航空機の遅延については、「泣き寝入り」と思いこむことが多いと聞き及んでいるが、必ずしもそうではない。天候や、テロ、戦乱など、航空会社としては取りうるべき範疇外の場合もあるが、整備ミスによる遅延などは、航空会社が責任をとるべきである。
遅延については、ワルソー条約時代から、航空会社が原則として責任を負うという過失推定主義がとられていた。モントリオール条約でも、過失推定主義が踏襲されている。同条約で、航空会社が責任を免れる場合としては、合理的に要求される全ての措置をとったことを証明するか、その措置をとることができなかったことを証明できた場合とされている。
天候による遅延では、航空会社が免責されるのが通常であろう。しかし、機体の故障の場合には、航空会社が責任を負うことも多いはずである。純粋な整備ミスなら責任は免れないであろうし、機体に欠陥がある場合には、それに基づいて航空会社があらかじめ対策を講じることが出来たか否かが争点になろう。
航空会社が責任をとるべき場合には、その賠償額が問題になる。ワルソー条約時代から上限があるが、モントリオール条約では、上限は4150SDR(約68万円)である(条約22条1項)。
ただ、故意の場合は制限が無くなる。乗客が少なく「delay」させた上、後続便とフライト統合するようなことをすれば、全損害の賠償義務を負うことになることが推定される。また、約款や国内法で別途定めれば、上限をかさ上げできることにもなっている(条約22条5項)。実際に、責任範囲を拡大することとし、それを「売り」とする航空会社も存在しており、個人的にはそのような航空会社が増えて欲しいと思うところだ。
<手荷物の損害>
旅行者のなかには、預けた手荷物が破損したり、無くなってしまったという経験を持つ者も多いはずである。しかし、これらの場合も泣き寝入りする必要はない。
航空会社は、預かった手荷物(受託手荷物)については、厳格責任(無過失責任)を負い、無過失を立証しても責任を免れないことになっている。他方、機内持込み荷物については、旅客の管理下にあるため、通常の過失責任である。
尚、チェックインの際、荷物を預けず、後に、客室乗務員に預けた場合は、受託手荷物扱いとなる。損害額については、遅滞の場合と同様に上限がある。モントリオール条約下では、ワルソー条約下での5000金フラン(約5万5000円)から大幅にアップして、受託、持ち込みをあわせて、1000SDR(約16万円)となっている(条約22条2項)。
ただし、約款で上限を引き上げて良いことになっており、航空会社によって、上限が異なる。また、殊に高額であることを宣言して、相応の割増料を支払えば、宣言額につき保障を得ることは可能だ。
<貨物の損害>
航空会社に貨物輸送を依託した場合は、受託手荷物と違い、過失推定主義である。したがって、原則として航空会社は責任を負うが、航空会社において、その貨物の破損、滅失、損壊が、貨物の固有の欠陥又は性質、第三者によってなされた荷物の不備、戦争又は武力衝突、又は当局の行為を原因として生じたことを証明できれば、その原因の寄与度に応じ、責任を免れることになっている(条約18条2項)。
上限は、貨物1キログラムあたり、17SDR(約2800円)である。しかし、手荷物と同様、定款で、責任限度額を引き上げられるし、高価品については、その旨宣言し、相応の増額料金を支払えば、上限を超えた金額の対応が可能となる(条約22条3項)。
<次回は、航空約款について説明しよう>
=====< 法律豆知識 バックナンバー>=====
第112回航空私法入門(その3)−死傷事故の損害賠償
第111回航空私法入門(その2)
第110回 航空私法入門(その1)
第109回 犯罪歴とビザの関係(その2)
第108回 犯罪歴とビザの関係(その1)
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※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com
執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/
航空機の運航には、遅延(delay)が付いてまわるものだ。しかし、航空機の遅延については、「泣き寝入り」と思いこむことが多いと聞き及んでいるが、必ずしもそうではない。天候や、テロ、戦乱など、航空会社としては取りうるべき範疇外の場合もあるが、整備ミスによる遅延などは、航空会社が責任をとるべきである。
遅延については、ワルソー条約時代から、航空会社が原則として責任を負うという過失推定主義がとられていた。モントリオール条約でも、過失推定主義が踏襲されている。同条約で、航空会社が責任を免れる場合としては、合理的に要求される全ての措置をとったことを証明するか、その措置をとることができなかったことを証明できた場合とされている。
天候による遅延では、航空会社が免責されるのが通常であろう。しかし、機体の故障の場合には、航空会社が責任を負うことも多いはずである。純粋な整備ミスなら責任は免れないであろうし、機体に欠陥がある場合には、それに基づいて航空会社があらかじめ対策を講じることが出来たか否かが争点になろう。
航空会社が責任をとるべき場合には、その賠償額が問題になる。ワルソー条約時代から上限があるが、モントリオール条約では、上限は4150SDR(約68万円)である(条約22条1項)。
ただ、故意の場合は制限が無くなる。乗客が少なく「delay」させた上、後続便とフライト統合するようなことをすれば、全損害の賠償義務を負うことになることが推定される。また、約款や国内法で別途定めれば、上限をかさ上げできることにもなっている(条約22条5項)。実際に、責任範囲を拡大することとし、それを「売り」とする航空会社も存在しており、個人的にはそのような航空会社が増えて欲しいと思うところだ。
<手荷物の損害>
旅行者のなかには、預けた手荷物が破損したり、無くなってしまったという経験を持つ者も多いはずである。しかし、これらの場合も泣き寝入りする必要はない。
航空会社は、預かった手荷物(受託手荷物)については、厳格責任(無過失責任)を負い、無過失を立証しても責任を免れないことになっている。他方、機内持込み荷物については、旅客の管理下にあるため、通常の過失責任である。
尚、チェックインの際、荷物を預けず、後に、客室乗務員に預けた場合は、受託手荷物扱いとなる。損害額については、遅滞の場合と同様に上限がある。モントリオール条約下では、ワルソー条約下での5000金フラン(約5万5000円)から大幅にアップして、受託、持ち込みをあわせて、1000SDR(約16万円)となっている(条約22条2項)。
ただし、約款で上限を引き上げて良いことになっており、航空会社によって、上限が異なる。また、殊に高額であることを宣言して、相応の割増料を支払えば、宣言額につき保障を得ることは可能だ。
<貨物の損害>
航空会社に貨物輸送を依託した場合は、受託手荷物と違い、過失推定主義である。したがって、原則として航空会社は責任を負うが、航空会社において、その貨物の破損、滅失、損壊が、貨物の固有の欠陥又は性質、第三者によってなされた荷物の不備、戦争又は武力衝突、又は当局の行為を原因として生じたことを証明できれば、その原因の寄与度に応じ、責任を免れることになっている(条約18条2項)。
上限は、貨物1キログラムあたり、17SDR(約2800円)である。しかし、手荷物と同様、定款で、責任限度額を引き上げられるし、高価品については、その旨宣言し、相応の増額料金を支払えば、上限を超えた金額の対応が可能となる(条約22条3項)。
<次回は、航空約款について説明しよう>
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第112回航空私法入門(その3)−死傷事故の損害賠償
第111回航空私法入門(その2)
第110回 航空私法入門(その1)
第109回 犯罪歴とビザの関係(その2)
第108回 犯罪歴とビザの関係(その1)
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