法律豆知識(104)、バス事故から想起されること、「白バス」
<トルコのバス事故に向けて>
今般、トルコのバスの横転事故で一名の死者と多数の重軽傷者を出す惨事が発生した。亡くなられた方の御冥福と怪我をされた方の速やかな回復をお祈り申し上げます。
その原因の究明や損害賠償の問題は、これからであろう。その点について直接的な検討は、関係者の御努力の妨げとなりかねないので、当面控えさせていただき、今回は関連の問題を検討することとしよう。
<中国の白バスの横行>
ある社説に、興味深い話が載っていた。中国の旅行業界は過当競争の中、値引き合戦が激しく、少しでも安くするため、「白バス」を利用するケースが多いという内容。仮に、この「白バス」で、今回のような死傷事故が起きるとどうなるのだろうか。
バスのドライバーに運転ミスがあっても、そのドライバーや、その事業主体に対する損害賠償請求は不可能である。彼らに損害賠償能力は全く期待できないからである。
また、このドライバーらに対する裁判管轄は、中国である。中国なら遠くないため、中国で裁判を起こすことも考えられる。ただし、賠償能力がなければ、いくら勝訴しても現金回収が不可能だ。結局、訴訟は起こしても無意味となる。
こうした場合、旅行を企画した日本の旅行業者の責任追求が中心となる。「白バス」を使った旅行を企画したとなると、その責任は大きい。本来、旅行業者は旅行商品を企画する時、サービス提供業者の安全管理能力を調査、検討し、かつ、現実の旅行遂行にあたっても安全が配慮されるよう、必要な対処が求められるからだ。
「白バス」を使ったとなると、これらの義務を全て放棄したことになり、全面的な責任を求められることになる。人が1人死亡すれば、損害賠償額は1億円近くなるのが普通である。十分な保険に入っていないと、会社の命運にかかわることとなる。
<高知学芸高校事件>
中国での事故というと、88年3月の高知学芸高校の列車事故のケースが思い起こされる。この件は、高校生73人が死傷している。訴訟としては、この修学旅行を送り出した学校が被告となった(本コーナーの第35回でこのケースを検討したので参照されたい)。それは、この件が学校の修学旅行であったからで、海外での事故に於いては、通常旅行業者が被告となる。
鉄道事故だったので、中国の鉄道局が同時に賠償請求の対象となったが、中国側の補償額は極めて低かったと聞いている。前述の社説によれば、航空機事故においても、中国での補償額は、国籍を問わず約300万円位(20万元)とのことである。
結局、中国に於ける事故に於いては、中国側からの十分な賠償は期待できない。したがって、日本の旅行業者が全面的に責任を負うことになる。旅行業者としては、旅行者の安全面には十分配慮した旅行を企画すべきで、コストを下げることを念頭に置いたとしても、「白バス」などは論外で、その管理についてもきちんとした対応が必要である。
=====< 法律豆知識 バックナンバー>=====
第103回 フライト・キャンセルからの紛争・解決に向けた提案(4)
第102回 フライト・キャンセルからの紛争(3)
第101回 フライト・キャンセルからの紛争(2)
第100回 フライト・キャンセルから発展した紛争(1)
第99回 スキューバダイビング事故、旅行会社の責任を問う
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※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com
執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/
今般、トルコのバスの横転事故で一名の死者と多数の重軽傷者を出す惨事が発生した。亡くなられた方の御冥福と怪我をされた方の速やかな回復をお祈り申し上げます。
その原因の究明や損害賠償の問題は、これからであろう。その点について直接的な検討は、関係者の御努力の妨げとなりかねないので、当面控えさせていただき、今回は関連の問題を検討することとしよう。
<中国の白バスの横行>
ある社説に、興味深い話が載っていた。中国の旅行業界は過当競争の中、値引き合戦が激しく、少しでも安くするため、「白バス」を利用するケースが多いという内容。仮に、この「白バス」で、今回のような死傷事故が起きるとどうなるのだろうか。
バスのドライバーに運転ミスがあっても、そのドライバーや、その事業主体に対する損害賠償請求は不可能である。彼らに損害賠償能力は全く期待できないからである。
また、このドライバーらに対する裁判管轄は、中国である。中国なら遠くないため、中国で裁判を起こすことも考えられる。ただし、賠償能力がなければ、いくら勝訴しても現金回収が不可能だ。結局、訴訟は起こしても無意味となる。
こうした場合、旅行を企画した日本の旅行業者の責任追求が中心となる。「白バス」を使った旅行を企画したとなると、その責任は大きい。本来、旅行業者は旅行商品を企画する時、サービス提供業者の安全管理能力を調査、検討し、かつ、現実の旅行遂行にあたっても安全が配慮されるよう、必要な対処が求められるからだ。
「白バス」を使ったとなると、これらの義務を全て放棄したことになり、全面的な責任を求められることになる。人が1人死亡すれば、損害賠償額は1億円近くなるのが普通である。十分な保険に入っていないと、会社の命運にかかわることとなる。
<高知学芸高校事件>
中国での事故というと、88年3月の高知学芸高校の列車事故のケースが思い起こされる。この件は、高校生73人が死傷している。訴訟としては、この修学旅行を送り出した学校が被告となった(本コーナーの第35回でこのケースを検討したので参照されたい)。それは、この件が学校の修学旅行であったからで、海外での事故に於いては、通常旅行業者が被告となる。
鉄道事故だったので、中国の鉄道局が同時に賠償請求の対象となったが、中国側の補償額は極めて低かったと聞いている。前述の社説によれば、航空機事故においても、中国での補償額は、国籍を問わず約300万円位(20万元)とのことである。
結局、中国に於ける事故に於いては、中国側からの十分な賠償は期待できない。したがって、日本の旅行業者が全面的に責任を負うことになる。旅行業者としては、旅行者の安全面には十分配慮した旅行を企画すべきで、コストを下げることを念頭に置いたとしても、「白バス」などは論外で、その管理についてもきちんとした対応が必要である。
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第103回 フライト・キャンセルからの紛争・解決に向けた提案(4)
第102回 フライト・キャンセルからの紛争(3)
第101回 フライト・キャンセルからの紛争(2)
第100回 フライト・キャンセルから発展した紛争(1)
第99回 スキューバダイビング事故、旅行会社の責任を問う
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