法律豆知識(103)、フライトキャンセル:解決に向けた一提案〜学会報告(4)
航空会社に関するレポートを3回連続で紹介してきた。この中で、当初、予想した通り、旅行業者と航空会社との間では、様々な問題が存在するようだ。今回は旅行会社の方から頂いた意見から、興味ある内容を取り上げて問題点を指摘したい。
<中国桂林での出来事>
メールを寄せていただいた旅行会社の方が問題とする旅行は、中国の桂林、広州を訪れる社員旅行を取り扱ったケース。桂林から広州へ移動する際、予定していたA社のフライトが「機材故障」でフライト・キャンセルとなった。その時点では、広州行きのB社の便があることから、A社の搭乗をキャンセルし、B社の搭乗券を購入しようとした。
B社で席を確保できることが確認でき、振替え購入しようとすると、なんとA社からB社へ「空席があっても販売するな」との申出があったという。カウンターで何度も掛け合ったがうまくいかず、結局、A社が用意した空港近くのホテルに一旦移動。7時間遅れで桂林を出発し、広州のホテルに着いた時には深夜12時を周っていた。
旅程で予定していた広州市内のレストランはキャンセルとなり、さらに状況を悪くしたのはA社が用意したホテルの食事は最悪で、誰も箸をつけなかったという。
帰国後、A社某支店に報告すると「そのような変更に際し、『売るな』というケースは考えられない」との前置きで、「現地に調査します」と言って、何のお詫びもないまま4ヶ月が経過している、という現状だそうだ。当該の旅行会社としては、利益を削り、ツアー参加客に返金し、納得してもらったという。
<御意見>
送られてきたメールには、
「お客様保護の観点から法律が改正される傾向ですが、そのお客様と常日頃接しているリテールもしっかり支えていただける機関や対応策がないと、旅行業界の発展は一部の会社だけの存続となる。リピーターで生き延びているリテールは、さらに窮地に追い込まれてしまいかねない。
お客様にとってリテールは、郵便局のように身近に感じていただいていますが、使い勝手の良い便利さを奪い、機械的な対応しかできない旅行会社のみでは、旅行を何倍にも楽しんでいただこうとするソフト面まで失われていくものと小生は考えます。
航空会社とは、現実、悪い政治的で居丈高な態度をとるような機関で(我々は従うのみでしょうか?)、燃料チャージが原油価格の高騰により上がっていく問題とは別かもしれませんが、一方的に『受け入れよ』との感は、小生だけでしょうか?」
と記されていた。現場での苦悩と本音が出ていて、私としても大変参考になる御意見である。
<課題の解決に向けて>
寄せられたご意見はフライトキャンセルの原因が「機材故障」という。本コーナー第101回で紹介した通り、「機材故障」の場合は、機体の欠陥が原因である場合と、整備上のミスが原因という場合がありうる。前者は、メーカーの製造物責任の問題であり、後者は運航する航空会社の責任である。実際は、後者が原因となることが多いようだ。
本件も、航空会社の整備ミスであれば、不法行為責任が発生するのは当然である。B社への振替が拒否されたのであれば、被害回復の機会を自ら奪ったということで、責任は加重され、結果として慰謝料額が増大するだろう。
ただ、このような場合、ビジネスチャンスを失ったというケースでない限り、損害額は僅少である。本件は、到着が7時間遅れということで、一般的には慰謝料位しか算定できないであろう。具体的な額を表記するならば、10万円以下である。この額に対して、費用と手間のかかる訴訟をする人は、ほとんどいないであろう。
解決方法は、まず、補償制度(compensation)を設け、機材故障の場合は無過失でも所定の補償額を支払うというような制度を設けることが考えられる。既に、EUでは、この制度が整備されている。
さらに、裁判外紛争解決手段(ADR)として、旅行関係を専門とする調停制度を設けることが手段の一つだ。日本旅行業協会(JATA)は苦情解決業務として、旅行会社と消費者の間のADR機能として動き始めた。ただし、現状はあくまで旅行会社/消費者の間に立つだけであり、今回の航空機の遅延などにより、航空会社、旅行会社、消費者の間を取り持つことは範囲外となる。航空業界と旅行業界等が共同してこのような制度を設けることを今後、検討して然るべきだろう。
=====< 法律豆知識 バックナンバー>=====
第102回 フライト・キャンセルからの紛争(3)
第101回 フライト・キャンセルからの紛争(2)
第100回 フライト・キャンセルから発展した紛争(1)
第99回 スキューバダイビング事故、旅行会社の責任を問う
第98回 スキューバダイビングでの溺死事故、ダイビングそのものに注意を
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※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com
執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/
<中国桂林での出来事>
メールを寄せていただいた旅行会社の方が問題とする旅行は、中国の桂林、広州を訪れる社員旅行を取り扱ったケース。桂林から広州へ移動する際、予定していたA社のフライトが「機材故障」でフライト・キャンセルとなった。その時点では、広州行きのB社の便があることから、A社の搭乗をキャンセルし、B社の搭乗券を購入しようとした。
B社で席を確保できることが確認でき、振替え購入しようとすると、なんとA社からB社へ「空席があっても販売するな」との申出があったという。カウンターで何度も掛け合ったがうまくいかず、結局、A社が用意した空港近くのホテルに一旦移動。7時間遅れで桂林を出発し、広州のホテルに着いた時には深夜12時を周っていた。
旅程で予定していた広州市内のレストランはキャンセルとなり、さらに状況を悪くしたのはA社が用意したホテルの食事は最悪で、誰も箸をつけなかったという。
帰国後、A社某支店に報告すると「そのような変更に際し、『売るな』というケースは考えられない」との前置きで、「現地に調査します」と言って、何のお詫びもないまま4ヶ月が経過している、という現状だそうだ。当該の旅行会社としては、利益を削り、ツアー参加客に返金し、納得してもらったという。
<御意見>
送られてきたメールには、
「お客様保護の観点から法律が改正される傾向ですが、そのお客様と常日頃接しているリテールもしっかり支えていただける機関や対応策がないと、旅行業界の発展は一部の会社だけの存続となる。リピーターで生き延びているリテールは、さらに窮地に追い込まれてしまいかねない。
お客様にとってリテールは、郵便局のように身近に感じていただいていますが、使い勝手の良い便利さを奪い、機械的な対応しかできない旅行会社のみでは、旅行を何倍にも楽しんでいただこうとするソフト面まで失われていくものと小生は考えます。
航空会社とは、現実、悪い政治的で居丈高な態度をとるような機関で(我々は従うのみでしょうか?)、燃料チャージが原油価格の高騰により上がっていく問題とは別かもしれませんが、一方的に『受け入れよ』との感は、小生だけでしょうか?」
と記されていた。現場での苦悩と本音が出ていて、私としても大変参考になる御意見である。
<課題の解決に向けて>
寄せられたご意見はフライトキャンセルの原因が「機材故障」という。本コーナー第101回で紹介した通り、「機材故障」の場合は、機体の欠陥が原因である場合と、整備上のミスが原因という場合がありうる。前者は、メーカーの製造物責任の問題であり、後者は運航する航空会社の責任である。実際は、後者が原因となることが多いようだ。
本件も、航空会社の整備ミスであれば、不法行為責任が発生するのは当然である。B社への振替が拒否されたのであれば、被害回復の機会を自ら奪ったということで、責任は加重され、結果として慰謝料額が増大するだろう。
ただ、このような場合、ビジネスチャンスを失ったというケースでない限り、損害額は僅少である。本件は、到着が7時間遅れということで、一般的には慰謝料位しか算定できないであろう。具体的な額を表記するならば、10万円以下である。この額に対して、費用と手間のかかる訴訟をする人は、ほとんどいないであろう。
解決方法は、まず、補償制度(compensation)を設け、機材故障の場合は無過失でも所定の補償額を支払うというような制度を設けることが考えられる。既に、EUでは、この制度が整備されている。
さらに、裁判外紛争解決手段(ADR)として、旅行関係を専門とする調停制度を設けることが手段の一つだ。日本旅行業協会(JATA)は苦情解決業務として、旅行会社と消費者の間のADR機能として動き始めた。ただし、現状はあくまで旅行会社/消費者の間に立つだけであり、今回の航空機の遅延などにより、航空会社、旅行会社、消費者の間を取り持つことは範囲外となる。航空業界と旅行業界等が共同してこのような制度を設けることを今後、検討して然るべきだろう。
=====< 法律豆知識 バックナンバー>=====
第102回 フライト・キャンセルからの紛争(3)
第101回 フライト・キャンセルからの紛争(2)
第100回 フライト・キャンセルから発展した紛争(1)
第99回 スキューバダイビング事故、旅行会社の責任を問う
第98回 スキューバダイビングでの溺死事故、ダイビングそのものに注意を
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