法律豆知識(98)、スキューバダイビングでの溺死事故、ダイビングそのものに注意を

  • 2006年8月26日
<危険を伴うスポーツと企画旅行>
 スキューバダイビングは、魅力的なマリンスポーツである。これを組み入れた企画旅行もよく見受けられる。しかし、このスポーツは危険性も高い。講習中に受講生が溺死その他の事故に遭い、裁判になったケースも沢山ある。その中から今週は、大阪地裁平成16年5月28日判決を紹介しよう。

 この判例は受講生が一人、溺死したケース。指導員、講習主催会社の不法行為責任が認められ、3860万円の支払いが命じられた。旅行会社にとっても、危険性を伴うスポーツを対象とする企画旅行を設計するときには、参考になる判例であろう。


<どんな事故だったか>
 インストラクター1名、受講生6名。受講生のうち、A子含めた3人は、初めての海洋演習で、他の者も、2回目という、典型的な初心者グループの講習であった。

 当日の海中は、台風の影響により透明度は悪く、普段ならば7、8メートルのところ、3、4メートルしか見えない状況であった。加えて波もあり、水面移動を潜行移動に切り替えたという状況でもある。

 インストラクターは、受講生を潜行移動させながら、自分はフロートの固定場所を探し求めていた。そのため、少なくとも30秒間、A子の動静は判らない状況であった。インストラクターは、A子が来ないことに気付き、探し始めてから5、6分後、水深2メートルのところに沈んでいるA子を見つけた。すぐに引き上げ、救急車で病院に運んだが、A子は病院で死亡した。死因は、裁判所の認定では溺死であった。


<裁判所の判断>
 裁判所は、初心者に対して水中で指導を行う講師に対しては、極めて高度な注意義務(動静監視義務)が課されている。具体的には、「受講生を常時監視し、常に視野に入れた上で、受講生に異常が生じた場合には、直ちに適切な措置を施し、事態の深刻化を未然に防ぐ高度な注意義務」があるとする。要するに、わずか30秒そこそこであるが、目を離したことが一番悪いと言うことである。これは、インストラクターがどんなに優秀でも1名では無理と言うことを意味する。

 本件は、A子本人が、LGL症候群という心臓の先天性疾患により、溺死前に意識障害を起こしていた可能性が高かった。しかし、インストラクターは、そのような異常が生じた時にこそ、「直ちに適切な措置を施し、事態の深刻化を未然に防ぐ」というのが裁判所の判断である。それを可能とするためには、リードするインストラクターの他に、少なくとももう一人が受講生の動静を常に監視する要員が必要ということだ。ことに本件では、台風の影響で、透明度が落ちていたので、そうした対応が必要であっただろう。


<ツアー企画での注意>
 本件は、講習主催会社も当然ながら、責任を問われている。むしろ、責任の主体は、主催会社である。
 海洋演習が1回目、2回目という初心者を1名のインストラクターに全て任せたというのは、そもそも企画でのミスである。他のスキューバダイビングの裁判例においても、主催者側の責任は重い。具体的な潜水中の指導は勿論、潜水計画の策定、管理、遂行についても、厳しく責任を問われている。
 危険なスポーツを対象とするツアーを企画するに当たっては、安全面について十分に気を付けて欲しいものである。






   =====< 法律豆知識 バックナンバー>=====

第97回 外国の弁護士事務所から訴状が送られてきた!!

第96回 法律家の観点から〜海外旅行の主流のPKGツアー

第95回 レストランでの火傷は誰の責任か〜TCSAレポートを参考に

第94回 拡大するインターネット取引と旅行業法の問題点

第93回 添乗員に対するセクハラ、旅行会社にも責任はあるのか



----------------------------------------------------------------------

※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com

執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/