法律豆知識(90) 旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜その3
会計参与は中小企業の救世主
<会計参与制度とは>
新会社法で特に注目されるのが、新設された会計参与制度である。
会計参与制度とは、税理士、公認会計士、税理士法人、又は公認会計士法人が、会社の正式機関(会計参与)となって、その会社の決算書等を作成するというものだ。そして、会計参与は取締役と同じように株主総会で選任される。
この制度のポイントは、決算書が会計専門家により作成されるため、公正になるというだけではなく、その本来の趣旨が、中小企業金融の大改革を目指したものであることだ。
<何が問題か>
銀行は、中小企業に融資するとき、必ず社長個人の個人保証を取る。社長の自宅に抵当権を設定する事も多い。
そのため万が一、企業が倒産すると、社長は個人として、零細企業でも何億という保証債務の責任を負わなければならない。会社の自己破産は同時に、社長個人の自己破産を意味する。免責を得て債務をゼロにしてもらう必要があるからである。
そのため、会社が行き詰まっても、なかなか会社の破産申請の決断が出来ない。早い時期に決断すれば、民事再生法等で会社の再建が可能であっても、そのチャンスを失ってしまう。同じ破産でも、早い時期での破産であれば、負債額が少なく、周囲に与える悪影響を最低限に押さえることが出来る。そして社長個人の「再起」もしやすくなる。しかし、社長個人の個人保証を取るという事実が、こうした判断を遅らせてしまっているのだ。
この点はつとに指摘されており、金融機関に対しては、個人保証に頼るのでなく、会社の信用力に対して融資することが求められていた。
しかし、金融機関にも言い分があった。中小企業の決算書は全く信用できないというのである。この言い分も一理ある。確かに、中小企業では、「粉飾決算」が横行している。赤字決算のままでは、銀行から借り入れが出来ないからだ。そこで「粉飾」して、黒にするのである。上場企業では、粉飾決算は経営者の刑事責任にまで発展する重大な違法行為である。しかし、中小企業は咎める人がいないので、事実上のフリーパスである。その結果、銀行が中小企業に融資するときには、必ず社長の個人保証を取るという状況が続いているのだ。
<どう改革するのか>
こうした悪弊を除去するには、中小企業の決算書を信用力あるものにする必要がある。そこで、産業経済省の強い意向で、新会社法の中に「会計参与」の制度が取り入れられたのだ。
従来、税理士が委託を受けて会社の確定申告をする場合、そこに「粉飾」があっても、税理士が責任を取らされることはなかった。ここでの税理士は外部の者にすぎないので、自分は会社から受け取った資料に基づいて申告処理をしただけという言い訳が、そのまま通ったのである。
しかし、「会計参与」制度では、そうはいかない。株主総会で選任された会社の正式機関だからだ。粉飾決算に荷担すれば、それを信じて融資した銀行から後に損害賠償も受けることも十分あり得る。
となれば、必然的にこの会計参与が作成した決算書の信用力は高くなる。これにより、銀行実務が変わり、会計参与を設置した会社からは個人保証を取らないという銀行実務の定着が強く期待されることになる。
<企業側としての会計参与>
会計参与を設置するには、定款の変更が必要であるとともに、会計参与になってくれる専門家には、相応の報酬が必要である。
また、会計参与が意味を持つためには、会計参与を設置している企業からは個人保証を取らないという銀行実務が定着する必要がある。会計参与になってくれる税理士や公認会計士等も増加する必要がある(責任が重いので、税理士や公認会計士は会計参与になることに慎重と聞いているので、やや心配である)。
これらのことを配慮しながら、企業としては、せっかく導入された会計参与の設置について、是非前向きに検討してほしいものである。
=====< 法律豆知識 バックナンバー>=====
第89回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その2
第88回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜1
第87回 航空会社のストと困った客〜約款・消費者保護と事後対応
第86回 グループ・ブッキングについて〜国際旅行法学会の準備原稿
第85回 景品表示法と広告〜第2回 「おとり広告」とは?
第84回 景品表示法と広告〜第1回 日本航空の広告から
第83回 上空からの鑑賞ツアー、悪天候での催行中止の責任は?
第82回 添乗員が旅先で病気に、その対策と対処
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※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com
執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/
<会計参与制度とは>
新会社法で特に注目されるのが、新設された会計参与制度である。
会計参与制度とは、税理士、公認会計士、税理士法人、又は公認会計士法人が、会社の正式機関(会計参与)となって、その会社の決算書等を作成するというものだ。そして、会計参与は取締役と同じように株主総会で選任される。
この制度のポイントは、決算書が会計専門家により作成されるため、公正になるというだけではなく、その本来の趣旨が、中小企業金融の大改革を目指したものであることだ。
<何が問題か>
銀行は、中小企業に融資するとき、必ず社長個人の個人保証を取る。社長の自宅に抵当権を設定する事も多い。
そのため万が一、企業が倒産すると、社長は個人として、零細企業でも何億という保証債務の責任を負わなければならない。会社の自己破産は同時に、社長個人の自己破産を意味する。免責を得て債務をゼロにしてもらう必要があるからである。
そのため、会社が行き詰まっても、なかなか会社の破産申請の決断が出来ない。早い時期に決断すれば、民事再生法等で会社の再建が可能であっても、そのチャンスを失ってしまう。同じ破産でも、早い時期での破産であれば、負債額が少なく、周囲に与える悪影響を最低限に押さえることが出来る。そして社長個人の「再起」もしやすくなる。しかし、社長個人の個人保証を取るという事実が、こうした判断を遅らせてしまっているのだ。
この点はつとに指摘されており、金融機関に対しては、個人保証に頼るのでなく、会社の信用力に対して融資することが求められていた。
しかし、金融機関にも言い分があった。中小企業の決算書は全く信用できないというのである。この言い分も一理ある。確かに、中小企業では、「粉飾決算」が横行している。赤字決算のままでは、銀行から借り入れが出来ないからだ。そこで「粉飾」して、黒にするのである。上場企業では、粉飾決算は経営者の刑事責任にまで発展する重大な違法行為である。しかし、中小企業は咎める人がいないので、事実上のフリーパスである。その結果、銀行が中小企業に融資するときには、必ず社長の個人保証を取るという状況が続いているのだ。
<どう改革するのか>
こうした悪弊を除去するには、中小企業の決算書を信用力あるものにする必要がある。そこで、産業経済省の強い意向で、新会社法の中に「会計参与」の制度が取り入れられたのだ。
従来、税理士が委託を受けて会社の確定申告をする場合、そこに「粉飾」があっても、税理士が責任を取らされることはなかった。ここでの税理士は外部の者にすぎないので、自分は会社から受け取った資料に基づいて申告処理をしただけという言い訳が、そのまま通ったのである。
しかし、「会計参与」制度では、そうはいかない。株主総会で選任された会社の正式機関だからだ。粉飾決算に荷担すれば、それを信じて融資した銀行から後に損害賠償も受けることも十分あり得る。
となれば、必然的にこの会計参与が作成した決算書の信用力は高くなる。これにより、銀行実務が変わり、会計参与を設置した会社からは個人保証を取らないという銀行実務の定着が強く期待されることになる。
<企業側としての会計参与>
会計参与を設置するには、定款の変更が必要であるとともに、会計参与になってくれる専門家には、相応の報酬が必要である。
また、会計参与が意味を持つためには、会計参与を設置している企業からは個人保証を取らないという銀行実務が定着する必要がある。会計参与になってくれる税理士や公認会計士等も増加する必要がある(責任が重いので、税理士や公認会計士は会計参与になることに慎重と聞いているので、やや心配である)。
これらのことを配慮しながら、企業としては、せっかく導入された会計参与の設置について、是非前向きに検討してほしいものである。
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第89回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その2
第88回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜1
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第86回 グループ・ブッキングについて〜国際旅行法学会の準備原稿
第85回 景品表示法と広告〜第2回 「おとり広告」とは?
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第83回 上空からの鑑賞ツアー、悪天候での催行中止の責任は?
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