法律豆知識、添乗員が旅先で病気に、その対策と対処(82)

  • 2006年3月18日


今回は、添乗員が旅先で乗中に病気となり、現地で入院して添乗の続行不可能となったケースを考えてみよう。

 始めに
 パックツアーでは、添乗員の添乗がツアーの核心となるが、その添乗員が旅行中に急病で入院し、添乗の続行が不可能になることが稀にある。最悪の場合、旅が途中で中止になることもある。多くの場合、現地旅行者や、サービス提供業者のバックアップにより中止は避けられようが、旅行客には大迷惑となるのは必定。対応を誤れば、パニック状態となりかねない。


 旅行業者の責任
 旅行が中止になった場合、約款に記載ある「旅行の継続が不可能」というのが、「旅行業者の関与し得ない事情」と言えるかが問題となる(募集型、企画型旅行契約約款18条1項3号)。
 添乗員も生身の人間である以上、病気で添乗不能になること自体はやむをえない。ただ、この場合、「旅行業者が関与し得ない」、つまり、旅行業者に責任がないとまで言い切れるかは難問である。
 実際のトラブル例では、添乗員が出発前から体調不安を感じていたが、交代者がいないため無理して出発して旅先で発病したという例や、普段の健康管理が不十分で、通常の定期健康診断をしていれば病巣の存在、あるいはその状況を事前に発見できたはずで、発見していれば添乗から外したはず、という例もある。
 これらの場合、旅行業者の関与しえない事情とは言い切れず、法的にも、違法性が生じざるを得ないであろう。


 対策と対処
 旅先で、添乗員が病気になった時、その後の対処が重要である。残された旅行者はどうしていいか判らず、パニック状態になりかねないのである。
 まず、送り出している旅行業者自体が、事態を正確に把握する必要がある。しかし、添乗員が情報提供出来ないことが通常であろうから、それに変わる、現地旅行社等があれば良い。そうでない場合は、緊急連絡体制が何よりも重要となる(緊急連絡先の必要性については、第79回で詳説したので参照して欲しい)。
 事態発生時に、代替添乗員をつけられればいいが、通常はそれが事実上不可能である。そこで、現地旅行業者に代替してもらう、あるいはホテルや航空会社などサービス提供業者にバックアップしてもらう等、臨機応変の対処が必要である。このときの対処が適切であれば、後から大きなトラブルにならなくても済むはずである。
 いずれにしても、旅行業者には、旅程管理責任、安全確保の責任があるのは当然で、起きた後の対処だけでなく、添乗員の普段からの健康管理や、添乗員の突発的なトラブルに対するバックアップ体制などを整えておく必要があるのは当然である。
 そして、送り出して出している各ツアーについて、添乗員が機能しなくなった場合、どのような事態が発生し、どう対処すべきか、シュミレーションして置くことも心がけて欲しいものだ。


 費用の精算
 添乗員のサービスが出来なくなった部分は、責任の有無にかかわらず、添乗員費用を返還する事になる。サービスの提供が出来なかったのであるから、当然である。
 中止した部分がある時には、取消しにかかった取消料等を控除した該当部分の旅行費用を返還することになる(約款18条3項)。
 さらに、旅行業者に責任がある場合には、損害賠償をせざるを得なくなる。損害の内容は、実損(余分にかかった通信費や交通費など)の他、迷惑や精神的負担を与えた分に対する慰謝料である。


 最後に
 派遣添乗員の場合、体調が悪くても添乗を実行しないと収入にならないというせっぱ詰まった事情があり、旅行業者に大丈夫かと聞かれ、大丈夫と答えて出発したが、現実には、旅先で倒れてしまったというケースもある。
 一面では、大丈夫と言った添乗員に責任の一端が発生せざるを得ないが、他方、無理をせざるを得ない添乗員の待遇についての問題もあり、一面的には決めつけられない深い問題を内在させていることも事実であろう。業界全体で考えて欲しいテーマである。



   =====<法律豆知識 バックナンバー>=====

第81回最近の相談事例から〜準備のための視察旅行は誰の負担か

第80回広告やパンフレットで掲載する食事の写真

第79回 添乗員無しのツアーの落とし穴〜緊急連絡先

第78回 「ハンパな処理」がトラブルを呼ぶ〜応用事例

第77回 「ハンパな処理」がトラブルを呼ぶ

第76回 ツアー中の雪崩事故とガイドの責任



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編集部: editor@travel-vision-jp.com

執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
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