頭脳とアナログ(直感)力-ベルトラ創業者 荒木篤実氏
人間の脳は実に不思議なものだと思うことがよくある。個人的な考えだが、理性と感性を半分ずつ持ち、そのバランスをどうにか制御している。でも実際どうやって判断しているのか、そのメカニズムは、自分自身ではわからないが、脳科学の世界ではかなり研究が進んでいるようだ。
古代エジプト時代、人の脳の外科手術が行われていたのは、考古学ファンにとってはよく知られたトピックである。頭を割っても安全に生命を維持できることを何千年も昔の人類がすでに知っていたこと、これだけでも脳に関する人類の関心度がわかる。実に驚きだ。
脳は、一般的にその大部分は、常時100%の稼働はしておらず、なんらかの不測の事態に備えるバッファー的な役割をしている部分が多いという説がある。私はその説に信憑性を感じる一人である。
ビジネスの世界に話を戻そう。いろいろな場面で重大な決断を迫られる場面に遭遇した際、人によって事実や統計的分析など、論理的思考に重点を置くロジック派と、自ら持つなんらかの経験値や思想に基づき、感覚的思考に重点を置く、いわゆる直感派に別れる。私は人にいわせるとロジック派らしいのだが、実は自分では直観派だと信じている。
というのも、人が人間という動物である限り、直感の根源たる「本能」に逆らうのは相当無理があるだろうと考えている。つまり、本来、本能は、いかなる場面・状況でも99%、自己を守る方向に決断するはずだからだ。その際、重要度と緊急度が高いことほど、人は本能つまり最後は己の直感に頼っているのではないか、というのが私の経験から感じてきた仮説だ。
ここで、専門家の意見をみてみることにしよう。2026年に掲載されたNature Neuroscience誌の論文によると、人の脳は、複数領域が「ネットワークとして同時協働」しており、そのメカニズム論の主流は、「脳領域単独説」から「分散ネットワーク説」へ移行しているという。つまりそれぞれの脳の部位が役割をばらばらに実行しているのではなく、それらをつなぐ形で、判断材料を1秒にもみたない高速度で「並列処理」し続けている。なにやら、インターネットやAIの仕組みそのものに近いのでないか、と思える。初期のインターネットが、軍事的に生き残る最適なネットワーク構造を追求した結果、脳に似た構造になったのは偶然ではないだろう。
1箇所(1つの部位)に問題(損傷)があっても、なんらかのリカバリーをネットワーク型の組織なら、人でも機械でも、再現できる。それだけ人間の脳の仕組みというものは不思議かつ素晴らしいものなのだと思う。
上述のNature誌によれば、脳の前頭前野は単なる司令塔ではなく、「学び方そのものを学習する装置」だという。ここでは、過去経験が重要な役割を持つ。つまり人間は、答えだけでなく“答えの探し方”も学んでいるという。これは人の柔軟性・創造性・環境適応を説明でき、AI研究にも大きな影響を与えている。
最後に、自宅付近の路線バス停でのある不思議な出来事を紹介しよう。その日はいつもより少し早くバスが到着。ラッキーとばかりに乗ったとたんに、バスの運転手が何やら私に叫んだのだ。何か問題かと聞くと、このバスはあなたが乗るべきではない!という。スクールバスでもないのに、なぜ?と思い、目的の鉄道駅に行くかと尋ねると、そこにはいかないという。あわててバスを飛び降りてみると、なんとそれはいつもと違う経路の路線バスだった。なぜ彼は、私が間違ったバスに乗ったことがわかったのか。それはその時間帯に、そのバス停から、過去一度も乗車したことがない客である私を見て、相当な違和感を感じた、その直感が正しかったのだ。人間というのはなんとすごい生物なのかと思う出来事であった。
パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。ベンチャー経営とITマーケティングが専門。ITを道具に企業成長の本質を追求する投資家兼実業家。

