訪日累計3900万人超で過去最高、米国アウトバウンド強化で双方向交流促進へ 観光庁長官会見

村田茂樹観光庁長官

 観光庁の村田茂樹長官は12月17日の定例会見で、2025年11月の訪日外国人旅行者数が約352万人となり、11月として過去最高を更新したと発表した。前年同月比では10.4%増となり、1月から11月までの累計は約3907万人に達し、すでに2024年通年実績を上回り、歴年での過去最高が確定した。

 地域別では、インバウンド全体の約8割を占めるアジア市場が堅調に推移したほか、欧米豪・中東市場が前年同月比で約27%増と大きく伸長した。村田長官は、特に欧米豪や中東からの訪日需要について「力強い成長軌道が続いている」との認識を示し、インバウンド市場の多様化が全体の押し上げ要因になっていると分析した。

 中国市場については、11月14日に中国政府が日本への渡航に関する注意喚起を行ったことを踏まえ、「一部でキャンセルの動きが出ている」と説明した。一方で、11月の訪日客数は前年同月比で3%増とプラスを維持しており、足元では日中間路線で減便の動きもみられるものの、その影響の広がりについては「引き続き状況を注視する」と述べた。特定市場への依存を避ける観点から、幅広い国・地域からの誘客を進める方針を改めて示した。

2025年訪日外国人数・出国日本人数(前年比)
訪日外国人数出国日本人数
2024年2025年前年比2024年2025年前年比
1月2,688,4783,781,629140.7%838,581912,298108.8%
2月2,788,2243,258,491116.9%978,8841,181,062120.7%
3月3,081,7813,497,755113.5%1,219,7891,423,449116.7%
4月3,043,0033,909,128128.5%888,767961,386108.2%
5月3,040,2943,693,587121.5%941,7091,076,756114.3%
6月3,140,6423,377,985107.6%930,2291,054,045113.3%
7月3,292,6023,437,118104.4%1,048,8231,205,435114.9%
8月2,933,3813,428,406116.9%1,437,1261,648,279114.7%
9月2,872,4873,267,228113.7%1,212,5451,394,525115.0%
10月3,312,1933,896,300117.6%1,148,5021,243,575108.3%
11月3,187,1753,518,000110.4%1,175,1171,330,000113.2%
12月3,489,8881,187,210
1~11月33,380,26039,065,600117.0%11,820,07213,430,800113.6%
1~12月36,870,14813,007,282

出典:日本政府観光局(JNTO)

 アウトバウンドについても回復が続いている。11月の日本人出国者数は約133万人で前年同月比13%増、1月から11月までの累計は約1343万人となり、すでに2024年通年実績を上回った。村田長官は、観光は国際相互理解を促進する重要な役割を担うとしたうえで、双方向の観光交流の意義を強調した。

 直近では在米国日本大使館主催の「日米観光レセプション」が開催され、観光を通じた日米協力の強化が図られた。村田長官は「コロナ前に日本人が最も多く訪れていた国で、双方向交流促進の観点からも非常に重要な国」との認識を示した。その上で、今後の米国へのアウトバウンド強化策については、JATAら業界団体とも連携しながら観光交流の裾野を広げていく考えを示した。具体策として、旅行会社の商品造成に関する環境整備や、観光局と連携した情報発信の強化、教育旅行を含めた若者の国際交流促進を挙げた。

IR再始動へ申請期間を設定、補正予算で受入環境強化

 特定複合観光施設(IR)を巡っては、新たな区域整備計画の申請を受け付けるため、申請期間を定める政令改正案について同日からパブリックコメントを開始したと発表した。改正案では、申請期間として2027年5月6日から同年11月5日までを追加する。現在認定されているIRは大阪・夢洲地区のみだが、これまで自治体への定期的な調査やヒアリングを行ってきた結果を踏まえ、公平性や準備期間を考慮した判断だと説明した。具体的な自治体名や数については明らかにしなかった。

 また、2025年度補正予算では観光分野として225億円を計上した。旅行需要の増加や特定地域への集中を背景に、オーバーツーリズムへの対応が課題となる中、公共交通機関での外国人旅行者対応、安全・安心対策、観光需要分散に向けた地域観光資源のコンテンツ化、違法民泊対策などを盛り込んだ。村田長官は「観光客の受け入れと住民生活の質の確保を両立させることが重要だ」と述べ、補正予算の迅速な執行と来年度当初予算を組み合わせた施策展開に意欲を示した。

 なお、会見では国際観光旅客税に関する報道上の呼称についても言及があった。村田長官は、同税は日本人出国者のみを対象とするものではなく、日本に入国後出国する外国人を含む国際観光旅客全体を課税対象としており、税収の約4分の3は外国人出国者によるものだと説明した。そのうえで、略称として「出国税」と表現すると誤解を招きやすいとして、報道の際には「旅客税」という呼称を用いるよう配慮を求めた。