TIFS会員インタビューVol.22 地域に根ざすITコンサルが旅づくりを始めた理由、岡山発・小さな旅行業の試行錯誤-ITプラン・ツーリズム・センター太田記生氏

  • 2025年12月1日
  • 出典:一般社団法人新観光創造連合会(TIFS)
-ご自身のコンサルタントとしての知見から見て、旅行業界のIT化やDXが直面する課題は何でしょうか?

太田 旅行業はコンサルティング業務に比べ、超低利益率です。銀行の方もこの利益率に驚かれるほどです。この超低利益率が、観光業界のIT化やDXが遅れている根源にあると考えています。

 観光業界ではDXが叫ばれていますが、全ての旅行会社がDXを進めるべきだとは思いません。一定の規模になってくるとIT化した方が業務効率化されますが、それにはコストがかかります。利益が出ていないのにDXだけやりましょう、とは言えません。業務が効率化されたところで、それに見合う収入が増えなければ意味がないからです。

 もし資金調達できる体力があればIT投資をしてもいいと思いますが、そうでない場合は、まず利益を出すところが先であり、DXは2番目となるでしょう。一方、弊社のような今から旅行業をスタートするような会社であれば、現行業務を改革する手間が不要ですので、最初からIT投資を優先すべきだと考えます。

 非常に象徴的ですが、現在、私のITコンサルティングの顧客リストには、観光系の企業は一社もいません。旅行業界のIT化、DXにも関わっていきたいのが私の願いです。

 また、生成AI(GeminiやChatGPT)が綺麗な旅行のモデルケースを作れるようになり、「旅行企画は自分で考えるから結構です」というお客様が増え、旅行業者の価値の差別化が難しくなっていることも、大きな課題だと感じています。

-超低利益率から脱却するために、今後の展望をどのように描いていますか?

太田 超低利益率から脱却し、求める顧客ターゲットにたどり着くために、私はインバウンドをしっかりと掴んでいきたいと考えています。特にターゲットとしたいのは、私が英語を喋れることから英語圏の人たちです。また、岡山に飛行機が来ている台湾やソウル、上海も有力なターゲットです。

 以前ドバイに行った際、観光に関する大半の情報にアラビア語と英語が併記されていることに感動しました。こうした高いレベルのホスピタリティや情報提供を求める層は、岡山にも魅力を感じてくれるのではないかと期待しています。岡山には病院も多いため、メディカルツーリズムも考えましたが、旅行会社と病院の連携は非常に難しかったという事実があり、まだ色々と模索検討中です。

-最後に、トラベルビジョン読者である旅行・観光業界の従事者へメッセージをお願いします。

太田 AIとの共存がテーマとなる時代において、旅行業の価値は、単なる日程表作りではありません。私たちの強みは、地元の人と交流したい、その土地のことに不案内で怖いからサポートしてほしい、というお客様の根源的な不安や要望に応えることです。

 収益性の問題からIT化が進まないのは事実ですが、他社がやらないからうちもやらなくていい、という発想は危険です。他社は他社、うちはうちで考え、自社がどういう方向に行きたいのかを明確にすることが必要です。まずは利益に見合った投資からスタートすること、そして、自社のビジョンと収益性に見合ったビジネス、取引先、お客様を大切にするという意識の切り替えが、低利益率から脱却し、業界が成長していくための鍵になると信じています。

 岡山という地域に根ざし、ITの力を活用しながら、世界に誇れる独自の体験型旅行を創出していくことが、私の今後の目標です。

岡山の体験型・着地型観光の企画手配

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