TIFS会員インタビューVol.22 地域に根ざすITコンサルが旅づくりを始めた理由、岡山発・小さな旅行業の試行錯誤-ITプラン・ツーリズム・センター太田記生氏
TIFS会員の取り組みをご紹介するシリーズ第22弾は、ITコンサルティングと経営コンサルティングを主軸とし、地域限定旅行業「ITプラン・ツーリズム・センター」を運営している太田記生氏。中小企業診断士の資格を有し、長年にわたる経営コンサルティングとITコンサルティングの経験を融合させ、観光業界の課題解決に挑んでいます。本インタビューでは、太田氏のユニークなキャリアと、観光業とITの現場に身を置く中で見えてきた気づきや、今後に向けた考えを伺っています。

太田 記生 氏(以下敬称略) 私の専門は、経営コンサルティングとITコンサルティングです。2008年に独立し、2014年には社名を「ITプラン株式会社」とし、ITコンサルティングを事業の中心に据えました。
旅行への興味は学生時代からです。岡山大学在学中に初めて訪れたラスベガス・アメリカ西海岸の旅で海外の面白さに触れ、同志社大学大学院(修士課程)在学中にはオーストラリアへ語学留学。さらにスイスやドイツなどヨーロッパ各地をまわり、ギリシャでぼったくりに遭った経験も含めて“旅が人生に与える影響”を強く感じてきました。
地域限定旅行業を始める決意を固めたのは、岡山商工会議所青年部(岡山YEG)で全国大会の総務部会長を務めたことが大きな契機でした。岡山の魅力を全国の仲間に伝える中で、「この価値をもっと広く知ってほしい」と強く思うようになりました。
ちょうどその頃、ITコンサルの仕事が減少傾向だったため、企業再生支援を合わせて行う「ITと財務の二本柱」で経営を立て直している時期でした。ここに“第三の柱”として旅行業を加えようと考え、2018年に国内旅行業務取扱管理者、2019年に総合旅行業務取扱管理者に合格。2019年11月に地域限定旅行業として登録しました。
ところが、登録直後にコロナ禍が始まり、事業は一時停止状態に。むしろこの苦境が「選択と集中」をやめ、「全部やる」という方向へシフトするきっかけになりました。現在は不動産賃貸業も加え、三本柱で事業を展開しています。
同じ時期に出版した『DX時代に成長する製造業のIT戦略』が多くの企業に届き、ITコンサルの仕事が大きく伸びました。現在は同志社大学大学院総合政策科学研究科の博士課程で、「中小企業のIT戦略」をテーマに研究も進めています。
太田 ITプラン・ツーリズム・センターでは、着地型・産業観光・オーダーメイド旅行を中心に、「岡山のことに最も詳しい旅行会社」を目指して活動しています。もともとは、企業研修やBtoB向けの体験型プログラムをつくりたいという思いがあり、地元の農業・製造業と連携した企画づくりからスタートしました。
これまで企画してきたツアーには、岡山の魅力を“深く掘り下げる”ことを重視したものが多くあります。たとえば、「スコレー・ぶどうオーナー塾」では、地元のフルーツ農園と協力し、農園主の話を聞きながら、ぶどうの奥深さに触れる体験を組み立てました。内容には自信がありましたが、11万円の価格設定が国内向けには高すぎるとされ、苦戦もありました。また、「百年企業セミナー&事業承継ワークショップ」では、長い歴史を持つ地元企業を訪ね、その企業がどのように事業を継続してきたのかを学ぶ企画を実施しました。私自身が経営コンサルティングとファシリテーションを専門としていることもあり、すぐにサービス提供できるレベルまで内容を体系化しています。
最近では、「歴史ミステリートレイルウォーク」として、鬼ノ城や吉備の中山など岡山の歴史スポットを巡る企画も実施しています。ガイド付きの企画だけでなく、今後はYouTubeでガイド音声を提供し、必要な方だけ聞ける“ガイドレス形式”も検討しています。
私が大切にしているのは、観光消費を“消費体験”ではなく、“地域の人とのつながり”として感じてもらうことです。地元の人と話したい、不案内なのでそばについてほしい――そんなニーズを持つお客様に寄り添いながら、岡山らしい旅のスタイルをつくっていきたいと思っています。

