オリンピックが街を変える「パリ2024」にまつわる話題、変貌するパリとその周辺地域

  • 2024年4月4日
Paris2024
Official Posters of the Paris 2024 Games ©Ugo Gattoni - Paris 2024

 1924年のパリ開催からちょうど100年、開幕まで残すところあと4ヶ月足らずとなった「パリ2024」。はじめに、7月26日開会式までのトピックを紹介する。

  • 1月16日

    CNOSF(仏国家オリンピック・スポーツ委員会)が、仏チームの選手の公式ユニフォーム発表

    ルコック・スポルティフ(Le Coq Sportif)のステファン・アッシュプール(Stéphane Ashpool)デザインによるものでトリコロール基調。同ブランドのサイトやショップ、パリ2024の公式ショップ(パリ・リヨンに5店舗)で購入可能。

  • 2月8日

    メダル発表

    老舗ジュエリーブランドのショーメ(Chaumet)による各メダルには、1889年当時のエッフェル塔から採取した18グラムの鉄が使用され、裏面にフランスを象徴する六角形が意匠に組み込まれている。

    Paris2024
    Medals of the Paris 2024 Games ©paris2024
  • 2月29日

    選手村の落成式

    マクロン大統領とカステラ五輪大臣などが出席。セーヌ河を挟んでサン・ドニ(Saint-Denis)、サン・トゥアン・シュル・セーヌ(Saint Ouen Sur-Seine)、イル・サン・ドニ(l'Île Saint-Denis)の3自治体にまたがる選手村には大会期間中、約14,500人の代表団が滞在予定。

    Paris2024
    ©SOLIDEO
  • 3月4日

    オルセー美術館で公式ポスター発表

    仏人デザイナーのウーゴ・ガットーニ(Ugo Gattoni)による夢のスタジアム都市を想起させるディテール豊かな作品は、スローガン「Let's open up the Games」を見事に表現する。ポスターは公式ショップ、FNACで販売中。

  • 3月18日

    残り5000枚のマラソン・ゼッケン配布

    8月10日に開催される「Marathon pour Tous(みんなのマラソン)」は五輪史上初、一般市民がアスリートと同じルートを走る試み。1月末までに35000枚のゼッケンが配布済み。パリ市庁舎を皮切りにオペラ座、グランパレ、ブローニュ、ヴェルサイユ宮殿で折り返し、エッフェル塔、そしてアンヴァリッドでフィニッシュする。

    Paris2024
    Map - Marathon Pour Tous©Paris 2024
  • 4月4日

    サン・ドニ・アクアティック・センター(Centre Aquatique de Saint-Denis)落成

    パリ2024のために建設された唯一のスポーツ施設。メインスタジアムのスタット・ド・フランス(Stade de France)と高速道路A1をまたぐ歩道橋で結ばれる。5000人収容、シンクロナイズド・スイミング、飛び込み、水球の予選が行われる。

    Paris2024
    Centre Aquatique ©paris2024
  • 4月5日

    公式切手発売

    ターコイズブルーとゴールド基調で、パリ2024の「ネオ・アールデコ」のヴィジュアル・アイデンティティを反映する。エッフェル塔とセーヌ川、ハートとボールを連想させる円があしらわれたデザイン。

  • 7月14日・15日

    聖火のパリ到着

    4月16日にギリシャのオリンピア聖域で灯された聖火は地中海を航海し、5月8日にマルセイユ港に到着し、フランスを北上する。

  • 7月26日

    開会式

    夏季五輪史上初、水上でのセレモニーが行われる。ユネスコ世界遺産セーヌ河岸に立ち並ぶモニュメントなど、街そのものが唯一無二の瞬間のための生きた背景になる。



オリンピック前夜のパリ

 2021年8月末以降、環状線や主に周辺部のマレショー大通り等、一部の道路を除き、パリ市内全域で自動車の走行が時速30kmに制限された(市民の約半数は賛成)。事故件数と騒音を減らすことがその目的である。また、アンヌ・イダルコ市長が推進する「呼吸するパリ(Paris Respire)」により、市内に約1500キロの自転車専用レーンが整備され、リヴォリ通りやシャンゼリゼ通りの他、セーヌ川両岸10haを占めるリーヴ・ド・セーヌ公園(Parc Rives de Seine)が安全にサイクリングできるようになった。加えて、日曜・祭日は多数の地区で車両通行禁止。モンマルトルやマレ地区、バッサン・ラ・ヴィレット(貯水池)はもちろん、もっと北に足を伸ばせば、パリ郊外のマルヌ河岸やサン・ドニ運河沿いのストリート・アート・アヴェニュー(Street Art Avenue)を満喫できる絶好の機会だ。

Paris2024
Croisières olympiques©Seine-Saint-Denis Tourisme

再生するパリの北郊外とパリ2024のレガシー

 ストリート・アート・アヴェニューは、パリのポルト・ド・ラ・ヴィレット(Porte de la Villette)からオーベルヴィリエ(Aubervilliers)を経て、スタッド・ド・フランスに至るサン・ドニ運河の壁面で展開される。2000年以来、この地区は再開発政策の焦点となっており、パリ2024の象徴的なプロジェクトのひとつにも指定されている。国際的なアーティスト、新進気鋭や地元のアーティストを問わず、地元住民を巻き込んだ参加型のアプローチが試みられている、サイクリング可能な約5キロのアーバン・アート・トレイルを楽しめるスポットだ。

Paris2024
SAA©Paola Delfin

 そして、パリの北9キロ、総面積52ha、3自治体にまたがって建設された選手村は、約30棟で構成される。建物全体はパステルトーンの落ち着いた色調で、地熱を利用した低炭素建築。生物多能性の維持の他、ウォーターフロント、歩道橋も作られている。選手たちの食堂として、「シテ・デュ・シネマ(Cité du Cinema)」で大会期間中、1日4万食が提供される。(一般客は利用不可)シテ・デュ・シネマは、仏の映画監督リュック・ベッソン(Luc Besson)が2012年にオープンした映画スタジオ。昔はサン・ドニ発電所だった。選手村は大会後の2025年以降、6000戸の住宅、オフィスビル、店舗、公共施設として一新され、サン・ドニとサン・トゥアンに2つの新しい学校が建設される。

 その他、2024年6月に地下鉄14号線の終点として、隈研吾設計によるサン・ドニ・プレイエル駅(Gare de Saint-Denis Pleyel)が開業する。この駅は将来的にグランパリ・エクスプレス(Grand Paris Express)の15号線の接続駅となる他、パリを囲んで走る16号線とサン・ドニとCDG空港を結ぶ17号線の終点となり、2030年には計5線が乗り入れる予定だ。

Paris2024
Gare Saint-Denis Pleyel © Kengo Kuma Associates

再び、オリンピック前夜のパリ
サイクリスト天国と締め出される一般車両、大会中の交通費の高騰など

 開会式が間近となり、市内の混雑の大きな原因のひとつだった大工事はほとんど終了した模様。とはいうものの、行政側のサイトやPRからはポジティヴな面ばかりしか見えてこないが、実際には速度制限30kmと自転車専用レーン拡張のため、市内はいつも大渋滞している。

 パンデミック中にパリのメインストリートであるリヴォリ通りが自転車専用レーンとなり、バス、タクシー、緊急車両、配送車、介護者や障害者あるいは住居証明がある地域住民以外は走行できなくなった。パリでもUberは浸透しているが、多くの商店主がこれらの通りを通行できるのに対し、Uber のプラットフォームであるVTCは権利者リストから除外された。ホテル・リッツ、ムーリス等、高級ホテルが並ぶリヴォリ通りとその延長線上にあるサン・タントワーヌ通りを走行できないことから、VTCはパリ市議会に不服申し立てをした後、2023年7月に行政裁判所に上訴を決定した。

 ブレイクダンス等の都市型スポーツ競技の会場となり、オベリスクの周りに1万人規模のファンゾーンが設けられるコンコルド広場は6月1日〜9月7日、全面閉鎖される。柔道とレスリングの会場となるシャン・ド・マルスとトロカデロ地区は3月から工事中。通行止めのエリアは7月までに順次閉鎖される。イダルゴ市長によると、コンコルド広場の半分は大会終了後も車両通行用に戻されず、チュイルリーからオベリスクまで歩行者に開放され、結果、60kmの自転車専用レーンが追加されるという。

 7月26日に開会式が行われるセーヌ河に架かる14の橋は順次閉鎖される。開会式までパリ中心部で通行可能な橋は、アレクサンドル3世橋、ポン・デザール、ポン・ヌフ、オーステルリッツ橋、ドゥビリー歩道橋の5つのみ。空域に関しては、開会式当日の夕方からパリから半径150km以内は閉鎖される。

Paris2024
Pont Alexandre III - Triathlon © paris2024

 パリ市議会は試合観戦に連日80万人の観客が訪れると予想されため、パリ2024開催期間中、公共交通機関が飽和状態にならないよう、市民にリモートワークを奨励している。

 当初、パリ2024期間中、市内の交通機関は無料になると発表されていたが、結局、その約束は反故にされ、7月20日〜9月8日、パリ交通局は観光客向けの特別パス「パリ2024パス(Pass Paris 2024:1日16€、1週間70€)」を導入すると発表。パリの地下鉄の臨時利用者のチケットの料金も通常の2倍となる。(メトロの1回券:2.10€→4€、10回券:16.90€→32€)ホテル代の高騰に加え交通費、パリ2024は観光客やスポーツファンにとって間違いなく高くつくことになるだろう。

取材協力:セーヌ・サン・ドニ観光開発局