前売り券発売の大阪万博、旅行観光産業の意欲・戦略・期待感は?(後編)

関西圏以外の地域が万博とどう向き合うか

東武トップツアーズ代表取締社長執行役員の百木田康二氏

 パネルディスカッションで、デスティネーションの立場から万博との関わり方を語ったのはOCVBの下地氏。経済、社会、環境の持続的な両立を前提とした観光振興などの取り組みを説明した上で認知度の向上やトランジットの観点から関西との連携の必要性を指摘したほか、東井氏も触れた会場外での万博のテーマの体現についても「それぞれの地域にあるテクノロジーの拠点を地域におけるサテライトパビリオンという風な位置付けをしっかりした上で、大阪を拠点としつつ全国に万博と結びつけられるようなイメージを作っていくことが大事」「この辺りを新しいものを作るものだけではなくて、既存のそれぞれの地域の特性を生かした展開から大阪万博につなげていく、そういうことにしっかり力を入れていきたい」とした。

旅行販売へ特設ポータルサイト

JTB代表取締役社長執行役員の山北栄二郎氏

 一方、JTBの山北氏は旅行会社の立場から考えを説明。訪日外客数が増加する一方で単価が減少してきた流れに対して、テクノロジーを活用したパーソナライゼーションなどを通した高付加価値化が必要であるとしたほか、東井氏が示したモデルルートやテーマツーリズムの重要性にも言及。

 JTBとしても、「旅行者と地域と企業をつないでいく」ことを事業戦略としており、各地でルートづくりやメディカルツーリズムの振興などに取り組んでいること、さらにマーケットに合わせた情報発信に力を入れていること、テクノロジー活用によるオーバーツーリズムの回避にも着手していることなどを紹介した。

 万博協会の堺井氏は、山北氏に続いて万博旅行の販売を目的としたポータルサイト「Expo 2025 Official Travel Guides」について概要を説明。サイト内では、地域の魅力を紹介する動画や祭りなどのイベントカレンダー、そうした体験を含む旅行商品、日本の文化に関するQ&Aなど多様なコンテンツを集めていく計画。

2025年日本国際博覧会協会担当局長の堺井啓公氏

 掲載する旅行商品は単価は高くても満足度の高い物を中心に取り揃え、万博の入場日の前後にできることを旅行者が自ら体験したいことをベースに選べるように設計しており、万博の終了後にも継続的に運用していく。堺井氏は、各デスティネーションでそうした性質を備える旅行商品が開発され、同サイトを通して万博が実験場として機能することを期待。サイト自体は来年4月に開設予定だが、すでにティザーサイトは開設している。

JNTOのプロモーション重点国

日本政府観光局理事の若松務氏

 そしてJNTOの若松氏は万博をフックとしたプロモーション方針を説明。市場としては近距離、万博開催国、訪日意欲などから北東アジア各国を重視するほか、欧米豪、さらに中東もターゲットとして設定。

 具体的な活動では、まずは来年の3月までに万博の基本的な周知を含めた情報発信に取り組み、開幕1年前となる来年の4月以降はターゲットとする旅行者ごとの状況に合わせて展開していく。例えば、もともと日本を旅行先として認識していないセグメントには「そもそも万博というものが2025年に開催される」という事実を知らせることで選択肢の一つに入るよう働きかけ、一方で訪日が決定しているようなセグメントでは回遊の促進を目指す。

 また、JNTOサイト内での特設ページの開設や現地旅行会社向けのセミナー、商品造成の支援、メディア露出なども計画。メディア露出はすでに様々なテーマとターゲットで取材も進んでいるという。

課題の機運醸成

OCVB会長の下地芳郎氏

 機運醸成については、百木田氏が日本旅行業協会(JATA)による旅行業界内の状況についての調査結果を紹介。万博に合わせたインバウンド誘致について「特に考えていない」と答えた割合は、関西に拠点のない旅行会社で54%、全体でも48%だったという。

 下地氏は「大阪万博そのものが、例えば地域であれば地域にとって自分ごとになっていない」と指摘。「『いのち輝く未来社会のデザイン』と地域社会の未来のデザインという視点から地域が自らどう取り組むかというところがまだ関心が高いと言えない」状況であるとしたうえで、「インバウンド振興の前にまず地域における取り組みが必要では」と提案した。加えて、現実的問題として空港などでの人手不足などの対策も重要と話した。

 また山北氏は、機運の問題の原因について日本人が海外に行っていないことが理由の一つかもしれないと指摘していた。