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アクセシブル・ツーリズムが開く観光の未来とは-東京都が第6回シンポジウム開催

  • 2023年1月29日

ハードのみならずソフト面でも整備を
需要の取り逃しを防ぎ、世界から注目されるアクセシブルな社会へ

今後の課題は分離教育、建物のさらなる整備や障がい者の社会進出も

佐藤聡氏

 続いて司会の川内氏は、東京都が2021年に策定した総合計画「『未来の東京』戦略」のなかで、「インクルーシブシティ東京」の実現を掲げていることを紹介。「多様な人を受け入れてそれぞれが生き生きと輝ける社会を作るための戦略とみているが、その考え方を進めていく上でアクセシブル・ツーリズムはどういう意義があるのか」と問題を提起した。

 これに対し佐藤氏は障がい者と健常者の分離教育を課題として指摘。健常者に障がい者の友人が作りにくいことで障がい者と共に暮らす社会がイメージしづらいとし、「建物や制度、政策などに(障がい者を見据えた施策が)広がっていかないのが根源的な問題」と語った。加えて日本が2022年に国連の障害者権利条約を批准している国を対象にした検査を受けた際、分離教育を中止し障害のある子供も共に学ぶインクルーシブ教育に向けた計画を立てるよう勧告が出されたことを紹介し、「これからの大きな課題」と話した。

 さらに、佐藤氏は店舗やホテル、劇場や住宅などの建物のさらなる整備を要望。日本では車いすで利用できるレストランが限られているので選択の余地があまりなく、行きたいところよりも行けるところを選ぶ必要があるが、アメリカではどこでも入れるため主体的にレストランを選択できるとし、「人間ってこんな自由だったっけ?とアメリカで知った。言って知ったアメリカは法律があるからすごい。日本もそれをめざしてやってほしい。ポテンシャルはあると思う」と語った。

 栗木氏は障がい者の就労についてコメント。JL時代に国際会議に出席にした際、スタッフに1、2人障がい者がいたことを挙げ「周囲に自然に溶け込んでいると感じた」と振り返った。その上で「できることとできないことをお互いが言い合える環境や、一人一人がリスペクトされる環境が非常に大切」と述べた。一方で、障がい者側にも、整備された設備を積極的に利用して社会参加し、多くの人に目に触れる、行動することが重要になると語った。

中村好明氏

 中村氏は訪日旅行に加え外国籍の留学や外国人就労、不動産投資などもインバウンドであると改めて定義。日本の旅行をきっかけに日本で就職した部下の例を挙げ、「日本がアクセシブルでなく、ダイバーシティがなくてインクルーシブな会社を作っていなければ、この先人口が減少していくなかでさまざまな可能性の芽を自分たちで摘んでしまう」と警鐘を鳴らした。加えて「ダイバーシティ&インクルージョンというものは日本の未来を切り開く大きな考え方」とし、日本のマーケティング戦略においてもPRしていく必要性があるとの考えを示した。その上で「日本がダイバーシティ、インクルーシブな社会を作る最短距離はインバウンド振興。日本が未来に生き残る、世界につながる社会を作るためにインバウンド振興をやっていこう」と呼びかけた。

 シンポジウムの最後には、佐藤氏がハード面の整備が進む一方、ノンステップバスに乗車を拒否されたり、乗る時に嫌味を言われたという声がいまだに多くあることを紹介。「オリパラ用の仮面を脱いで日本人相手だったら素顔でそんなにいい顔しなくてもいいという話ではない」と話した。さらに「対等な人として見るため、人に過度に依存し、人がいなくては移動できないのは問題だから、物理的なアクセシビリティが必要」とし、「ハードを整備した後使える状態になっているか、(障がい者が)快適に人として対等に扱われる社会になっているかどうかという点で日本の社会を見直せば、日本と東京が進むべき道は見えてくるのでは」とまとめた。