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【フランス現地レポート】ソフトモビリティがパリの風景を変える サイクリングブームとSDGs

  • 2022年10月7日

100%サイクリストに優しい都市を目指す、ポスト・コロナのパリ

 2024年に夏季オリンピック・パラリンピック開催を控えるパリで、ここ数年、自転車専用レーンが猛スピードで増えている。ロンドン五輪(2012年)比でCO2排出量55%削減の目標に、「史上最もサスティナブルな大会」を目指していることが最大のその理由だ。パリは従来から、自転車シェアリング(Vérib’、最近は施錠やナビが可能な電動アシスト自転車も登場)やEVカーシェアリング(Autolib、2019年よりMobilib)導入の先進都市として有名だが、実際は自動車やバイクが多く自転車専用レーンの整備はあまり進んでいなかった。

パリ全景 ©Paris2024

 パリ市長アンヌ・イダルコは2014年の市長就任直後から「自転車道整備5ヶ年計画」に着手し、当時わずか5%に過ぎなかった通勤交通の自転車のシェアを2020年まで15%に増やすことを目標に、約1.5億ユーロの自転車道整備計画「Plan Vélo 2015-2020」を策定した。メトロポリタン(Métropolitain、地下鉄の意)に擬えたヴェロポリタン(Vélopolitain、造語で自転車都市)を目指し、6年間でコンコルド広場〜ルーヴル美術館〜パリ市役所に臨む、代表的なメインストリートであるリヴォリ通り(約3Km)を含む合計約600kmを自転車専用レーンとして整備するなど、パリの風景を一変させる画期的な政策を次々と打ち出した。加えて新型コロナの蔓延によりサイクリストは激増。バスレーンが一時的に自転車専用レーン(コロナ・ピスト)として利用された(自転車専用レーンとして今後も残ることに決定)他、市民対象の無料サイクリング・レッスンの提供、フランス環境連帯移行省が新型コロナウイルス対策の自転車利用促進策(Coup de Pouce Vélo)として合計2000万ユーロ(約24億円)を供出し、市民は古い自転車の修理代の補助として50ユーロ(約7000円)を受け取った。こうした様々な政策も後押しし、パリの自転車利用は1年間で約54%増えたという。感染防止だけでなく環境保護や市民の健康維持にもつながる自転車の利用が、ポスト・コロナのサスティナブルな新しい生活スタイルとして、これからも一層定着していくのかが注目されるところだ。

パリ1区パレロワイヤル付近

パリ6区ボナパルト通り ©Paris Tourist Office - Photographe Amélie Dupont

 「呼吸するパリ(Paris Respire)」、「車への依存から抜け出し、新しい自由を手に入れよう」のメッセージの下、イダルコ市長は2期目(2020~2026年)で3.5億ユーロを投じ、長時間移動を減らし自転車と徒歩で日常生活が成りたつ都市構想「15分の街パリ」(Paris ville du quart d’heure)への取り組みを打ち出している。オリンピック・パラリンピックが開催される2024年までに全ての道路で自転車が走れるよう専用レーンを整備し、6万台分の駐車スペースをなくし10万台分の駐輪場を整備する他、パリ中心地の主要道路を車両進入禁止にして歩行者やサイクリストに開放。「自転車シェルター」の設置、2030年までにディーゼル車やガソリンエンジン車を段階的に禁止する計画等も掲げている。

夏のパリの風物詩パリプラージュ ©Paris Tourist Office - Photographe Marc Bertrand

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