【リクエストインタビューvol.1】先駆者に聞く、日本版DMOの課題とこれから―Intheory村木智裕氏

  • 2022年5月19日

DMOの理想形は公益と共益の間
ロジックとセオリーに基づいた戦略を

私共はまずはエリア認知度を上げる必要があると考えています。マーケティングの充分な知識がないDMOの場合、何から取り組めば良いか教えてください。

村木 仮説でもいいので、自分たちの地域に親和性のある旅行者が誰かを明らかにすることからだと思います。前提として、観光振興の入り口は、やはりプロダクトアウトだと思っています。そのエリアにあるものでしか勝負できませんし、文脈を大事にしたブランディングを行おうとすると、「そのエリアに何があるか、それに興味を持つのは誰なのか」をまずは考えなければいけません。

 次は、そこで浮かび上がってきた人たちのカスタマージャーニー、「どのように情報収集し何を使って手配をしているのか」を考えます。そうすれば自ずと、どこでどのようなアプローチをしていけばいいか分かるはずです。縦割り組織ではこの流れがブツ切りになりがちなので、全体をきちんと繋げてディレクションできるマーケターを立てられると良いですね。

日本のDMOは海外のDMOとは期待されている役割が少し異なると感じています。特に弊社はDMOでもあり、観光コンテンツを提供することを期待されている旅行会社(事業者)でもあります。その場合、どこに軸を置いて取り組めば良いのでしょうか。

村木 これは「日本DMOあるある」ですね。DMOの財源を手当てする仕組みがないままに乱立してしまったので、お金がないDMOが多い。自治体が負担する形でもいいですが、安定してお金を拠出してもらうと決まっているのであればまだしも、ままならないのが実情です。資金手当てに労力を割くことになると、本来のミッションであるマーケティングができない状況に陥り、結局は自分たちで稼ぐしかない(DMC化)という考えになってしまうのです。

 特に旅行会社などの民間企業が一緒に作っている組織は、皆「何かしらビジネスになればいいな」という考えも持って参画しているわけですから、公益より私益に走りがちで、中長期の視野も足りなくなる傾向にあると感じます。

 DMOは地域に利益をもたらすことをミッションとしています。つまり、国内外から観光客を呼び込んだら、その恩恵を受ける人がDMOの運営資金を負担することが、受益と負担の一致の原則です。海外では受益者から集めた資金を管理する団体が資金面のやりくりを担い、DMOはマネージメントやマーケティングに専念できる体制になっているところも多々あります。

-自走できていると感じる日本のDMOはありますか。

村木 私の観点では、まだありません。私見ですが、DMOの理想形は、公益と共益の間くらいであるべきだと考えています。例えばある団体は、今後、地域の観光受益者が少しずつ負担して街並みをきれいにしたり、電線の地中化をやりたいと考えていて、それは正に共益ですし、住民がメリットに感じたら公益にもなります。こうした理念があり、そのための事業計画や組織が整備されているDMOはまだないと感じています。

-観光産業の方々へメッセージをお願いいたします。

村木 企業の皆さんにはもっと未来志向であってほしいと願っています。いま来ている観光客の奪い合いという発想ではなく、皆で手を携えてパイ自体を大きくするという考え方ができればと思っています。コロナ禍前のインバウンド客数は3000万人。世界規模で考えればもっと潜在客がいます。

 今日本が抱えている生産性や給与水準の低さなどの問題は、共通して「投資しない」ことが要因だと思っています。技術や人に投資しなければ成長はないのに、それができない雰囲気になっている。小さいパイの奪い合いで勝つこととコストカットに勤しみ、それが人件費に跳ね返るという負の循環です。パイを膨らましたうえで競争をした方が、高単価で販売できて結果的に潤うはずです。観光は様々な事業者が集合して成り立っているものなのですから、共益の精神でいきましょう。

-ありがとうございました。