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「銀行はこう使え!」-メガバンク元営業担当が本気のアドバイス vol.6

粉飾決算の手口

代表的な手口その2:売上の架空計上

 2つ目の手口は売上の架空計上です。複式簿記の良くできた点で、「売上を増やすだけ」という処理は不可能ですから、相手勘定は売掛金などの売上債権となります。棚卸資産に比べれば勘定科目明細に社名や金額が記載される内容なので、銀行目線では在庫に比べると実在性を疑うことは少ないですが、それでも悪意をもって行われると見抜くのが難しくなります。こちらも具体例を見ながら解説します。

[1]粉飾前

B/S
借方貸方
預金10買掛金35
売掛金40借入金50
商品30自己資本▲5
8080

P/L
借方貸方
売上原価100売上高120
販管費30
当期利益▲10
120120

[2]粉飾後

B/S
借方貸方
預金10買掛金35
売掛金60借入金50
商品30自己資本15
100100

P/L
借方貸方
売上原価100売上高140
販管費30
当期利益10
140140

 粉飾前の財務状況は先ほどと同様です。今回は売上20円を架空計上します。売上高の計上に応じて売掛金が20円増えて60円となりました。在庫の架空計上より仕組みはシンプルで、売上が増加した分利益も増加し、▲10円の当期赤字から+10円の当期利益とすることができ、自己資本も15円と債務超過を免れることができました。

 売掛金の相手先を子会社とすれば外の企業を巻き込むことなく行えますし、仮に外部の企業名を利用したとしてもその商取引の実在性まで銀行側で調べることは不可能です。こちらも棚卸資産と同様に回転期間が異常でないかが1つの参考指標であり、前期と同額が計上されている場合も焦げ付いていないかヒアリングを行います。

 事業者側のリスクは在庫の架空計上と同様で、1度計上してしまった売掛金は回収できるまで残り続けるので、実態のない20円はいずれ減損処理しなければなりません。売掛金は明細が出る分在庫よりも詳細が残りやすいので、外部に気付かれる可能性もあり、いずれにせよリスクが高い行為です。

 これらのほかにも、関係会社を用いた循環取引や税金対策を目的として売上・利益を減らす逆粉飾決算など、手口は様々です。銀行は騙されることがないよう、決算書を分析することは当然として、日々の面談で相手が信用できる取引先か見極めています。とはいえ、このような粉飾決算は「長く」、「少額を」、「悪意を持って」行われると、見抜くことが非常に難しいと言えます。一方で粉飾決算は犯罪行為です。明るみになれば法的責任を問われることとなりますし、1度手を出すと後々の費用計上が足枷となりやめられなくなるという観点からも、行うべきではありません。取引先の与信管理をする際は、これらの視点を持って分析してみると面白いのではないでしょうか。