itt TOKYO2024
itt TOKYO2024

女性の活躍推進は働き方改革そのもの-経営フォーラムから

HIS・JTB・資生堂の担当者が取組事例を紹介
女性社員が長期的に能力を発揮するには

一律の制度から「個別の配慮」に転換-資生堂

本多氏  女性社員の活躍を先駆的に進めてきた資生堂からは、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)を担当する社会価値創造本部のDiversity & Inclusion Department Directorを務める本多由紀氏が同社の取り組みを説明した。創業1872年の資生堂は国内で勤務する社員2万3000人のうち8割が女性で、そのうち9000人が店頭での「ビューティーコンサルタント(BC)」を務める。

 本多氏によれば、資生堂では1990年から育児休職制度を導入していたものの、女性の活躍に本格的に取り組んだのは2005年前後。総合職と研究職は育児休職制度を利用して、出産を経ても就業していたものの、BCは出産すると退職していたという。そこでBCが育児を理由に退職しないように企業内託児所を設け、育児関連の支援制度も拡充。しかし制度を充実させるほど会社はリスクを抱えることから、男女ともに「育児や介護などをしながらのキャリアアップ」をめざす方向に舵を切ることとなった。

 14年には子育て支援の制度をこれ以上拡充するのではなく、育児のための時短勤務者も通常勤務の社員も遅番や土日勤務を割り当てて公正に扱い、1人ひとりに対して個別に配慮する方針にシフト。背景には、子育てが“聖域化”していたことで子育て期以外の社員の負担が増大し、不公平感から社内の雰囲気が悪くなっていたことがあった。

 自らも子育てをしながらキャリアを積んできた本多氏は「育児との両立の困難度がピークを迎えるのは妊娠初期、育休からの復帰直後、子供が小学1年生の時の3つ。それ以外の落ち着く時期は働ける」と説明。全国の約500人の営業部長などには、育児制度を整えるだけでは女性たちを活躍させられないことや、一方では子育て中でも活発に働ける時期があることを説明して理解を求めた。

 ところが15年には、NHKが「おはよう日本」で、資生堂が育児のための時短勤務者に遅番と土日勤務を義務化したことを、世間が「資生堂ショック」と問題視していると報道。「女性に優しいはずの会社が優しさを返上した」とTwitterが炎上するなど、世の女性たちからの反発が起こった。しかし本多氏は「一律の制度から個別の配慮への転換には自信を持っていたし、後にこの取り組みが社会に一石を投じた」と振り返る。

 本多氏によれば、改革には「個別の丁寧なコミュニケーション」「ジャストフィットの配慮」、そして本人の努力だけではなく上司・同僚・家族の理解と協働が必要で「男性たちの働き方を変えないと、女性の活躍は進まない」という。本多氏はあわせて「育児はキャリアの弊害ではない」とも強調し、同社では育児を経て管理職になり、部下を持つ社員も増えていることを説明した。

 モデレーターの吉金氏は「女性だけでなく、多様性を受け入れる企業風土づくりが大事で、社内の風土を可視化し、効果を数値で表すことが重要」とコメントした上で、「旅行業界には女性の活躍や多様性を推進する上で必要なデータが不足している」と指摘した。また、多様化する女性の生き方をひと括りにはできないことについて述べた上で、「女性の活躍推進は働き方改革そのもので、経営の最重要課題の1つとして捉えないといけない。そうすることが優秀な人材を逃さず、採用することにつながっていく」と締めくくった。