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海外医療通信2016年9月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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・海外感染症流行情報 2016年9月号

1)東南アジアでのジカ熱流行

9月になり東南アジア各国でジカ熱の国内感染例が報告されています。

シンガポールでは8月末に東南部のアルジュニード地区などで患者が発生し、9月中旬までに387人の患者が確認されました(シンガポール環境庁 2016-9-23)。タイでもバンコクで9月に23人(英国Fit For Travel 2016-9-21)、マレーシアではコタキナバルで、フィリピンではイロイロで国内感染例が報告されています(外務省 海外安全HP 2016-9-4, 6)。これ以外にもWHOはベトナム、インドネシアで国内感染例が発生していると報告しています(WHO 2016-9-22)。

WHOは、こうした東南アジアでの国内感染例の増加に関して、中南米からの輸入症例を起点にした国内流行よりも、もともと東南アジアで流行していたジカ熱が、検査の促進で発見されている可能性が高いとの見解を示しています(WHO 2016-9-22)。2015年から中南米で流行しているジカウイルスは胎児への影響や神経系の合併症を起こすことが知られていますが、東南アジアでもともと流行していたウイルスが同様の病気をおこすかは明らかになっていません。いずれにしても、日本の外務省は「これらの国々への妊娠中および妊娠予定の方の渡航を控えるように」との勧告を出しています(外務省 海外安全HP 2016-9-4)。

2)アジア諸国でのデング熱流行

アジア各地からデング熱の流行が報告されています。マレーシアでは9月中旬までに患者数が約7万人、フィリピンでは8月末までに10万人で、昨年より減少傾向です(WHO西太平洋2016-9-20)。一方、シンガポールでは9月中旬までに1万人を越えており、昨年よりも70%増加しています。

インドでは9月中旬までに全土で2万7000人のデング熱患者が発生しており、西ベンガル州、オリッサ州、ケララ州などで患者数が多くなっています(ProMED 2016-9-20)。また、デリーでも9月までに1000人以上の患者が発生した模様です。なお、インドでは蚊に媒介されるチクングニア熱の患者も今年は1万人以上発生しています。

3)アフリカ南部の黄熱流行は鎮静化

アフリカ南部のアンゴラやコンゴ民主共和国では、昨年より黄熱の流行が発生していましたが、鎮静化の傾向にあります(WHO 2016-9-16)。アンゴラでは6月末以来、今後では7月中旬以来、新しい患者の発生はみられていません。今回のアフリカでの流行に関連して黄熱ワクチンの流通量が落ちているとの情報もありましたが、日本国内では現時点で流通量に変化はないようです。流行のあった2か国はもちろんのこと、近隣諸国でも入国時に黄熱ワクチンの接種証明書の提示を求める可能性があるため、入国時には検疫所のホームページなどで最新情報を入手してください。

4)米国・フロリダ州でのジカ熱患者発生状況

米国フロリダ州では7月末からジカ熱の国内感染例が発生しています。最近1カ月間の患者数は約50人で、患者の発生地域はマイアミビーチ周辺に限定されています(フロリダ州保健局 2016-9-23)。日本の外務省は「フロリダ州への妊娠中および妊娠予定の方の渡航渡航を控えるように」との勧告を出しています(外務省 海外安全HP 2016-9-20)。なお、米国ではジカ熱の輸入患者数が9月中旬までに3300人以上に達しました(米国CDC 2016-9-21)。

5)南半球での季節性インフルエンザの流行

南半球では冬の時期を迎えており、季節性インフルエンザの流行が各地で報告されています。

南米ではアルゼンチンで患者数が増加しており、A(H1N1)型が主に検出されています。オーストラリアでは9月に流行がピークとなり、A(H3N2)型が増えています。流行地域に滞在中は手洗いなどを励行するようにしましょう。

6)日本での麻疹の流行

国立感染症研究所の発表によれば、今年の日本国内での麻疹患者数は9月11日までに115人で、このうち98人が8月中旬以降に発生しました(国立感染症研究所 2016-9-20)。8月からの流行は関西国際空港を中心に拡大し、これに関連するなどして国内各地で患者発生がおこりました。今年発生した患者の年齢は20歳~30歳代が半数を占めており、この世代は以前から麻疹の抵抗力の弱いことが明らかになっています。

WHO西太平洋支部の報告では、今年はモンゴル、中国、マレーシアなどで麻疹の患者発生が多くなっています(WHO西太平洋2016-8)。こうした地域に渡航する方や、空港職員など海外渡航者と接する機会の多い方の中で、20~30歳代に該当する場合は、麻疹ワクチンの接種を受けておくようにしましょう。なお、現在、国内で麻疹ワクチンの流通量が少なくなっており、接種を希望する場合は、事前に医療機関にお問い合わせください。

 

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2016年8月8日~2016年9月4日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2016.html

1)経口感染症:輸入例としてはコレラ1例、細菌性赤痢10例、腸管出血性大腸菌9例、腸・パラチフス2例、アメーバ赤痢4例、A型肝炎4例、ジアルジア1例が報告されています。腸管出血性大腸菌は前月(2例)より増加しており、感染国も英国、米国、ニュージーランドなど先進国が多くなっています。先進国でも非加熱の牛肉などから感染する可能性があるため、注意が必要です。

2)蚊が媒介する感染症:デング熱は輸入例が39例で、前月(25例)より大幅に増加しました。感染国は前月と同様にフィリピンが15例と最も多く、インドネシア(9例)、タイ(5例)と続いています。なお、今年のデング熱累積患者数は237例で、昨年の同時期(190例)を大きく上回る数になりました。これ以外にマラリアが1例(感染国:ナイジェリア)、チクングニア熱が1例(感染国:フィリピン)報告されています。

3)その他の感染症:麻疹の輸入例(疑いを含む)が9例と増えています。感染国はインドネシアが3例で、タイ、中国、韓国が各2例でした。

 

・今月の海外医療トピックス

動物の狂犬病調査ガイドライン

前回もお伝えしましたが9月28日は世界狂犬病の日で、今年は制定されて10回目となります。日本国内では、2006年にフィリピンで犬に咬まれ、帰国後発症し亡くなられた症例がありましたが、1957年以降、国内発生例の報告はありません。

日本などの島国では、陸続きの国々に比べ狂犬病の根絶が比較的容易と考えられていましたが、2013年に台湾で死亡したイタチアナグマの体内から狂犬病ウイルスが検出されたニュースは記憶に新しいと思います。1961年以降、狂犬病の報告のなかった台湾で自然界に狂犬病ウイルスが存在することは衝撃的な事実でしたが、動物の調査がなされているからこそ分かったことといえます。 日本でも狂犬病対応ガイドライン2001が制定され、3年前に動物の狂犬病調査ガイドラインが作成され、より多くの動物の調査がなされるようになりました。このガイドラインの冒頭でも述べられていますが、過去欧州でも海外から持ち込まれたイヌが狂犬病を発症した事例があり、狂犬病清浄国の日本も備えが必要と考えます。兼任講師 古賀才博

参考 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/dl/140826-01.pdf

 

・渡航者医療センターからのお知らせ

第16回渡航医学実用セミナー(当センター主催)

次回の実用セミナーを下記日程で開催いたします。テーマは「海外で病気になった時の医療対応」です。当センターが東京国際空港で行った海外渡航者の健康意識調査の結果をもとに、海外で病気になった時の医療対応の方法について紹介します。

・日時:2016年10月6日(木曜) 午後2時~午後4時半 ・場所:東京医科大学病院6階 臨床講堂

・参加費:無料 ・定員:約100名

・申込方法:当センターのメールアドレス(travel@tokyo-med.ac.jp)まで、お名前と所属をお送りください。ご返信はいたしませんのでよろしくお願いします。

・プログラム(詳細は当センターHPをご参照ください)        

http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/seminar.html
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