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正確な情報を迅速に、地域に求められる危機管理

旅行業界においてイベントリスクは不可避。災害やテロなどが起こるたびに、企業あるいは行政のリスクマネージメントが問われる。消費者が再び安心して旅行を楽しめるようにするために、行政や業界がすべきことは何か。被害を受けたデスティネーションが市場回復のためにやるべき対策とは。JATA国際観光フォーラム2013の特別シンポジウムでは、「災害・テロなどによる観光訪問客の落ち込みからの回復」をテーマに、SARS、米同時多発テロ、東日本大震災など過去の事例を参考にしながら、パネリストが議論を進めた。

モデレーター
高松正人氏 JTB総合研究所常務取締役・観光危機管理研究室長
パネリスト
デービッド・リョン氏 香港政府観光局(HKTB)日本局長(※当時)
リック・ヴォーゲル氏 太平洋アジア観光協会(PATA)本部理事、インクルード代表取締役社長
谷合一浩氏 エイチ・アイ・エス(HIS)いい旅研究室室長



PATAヴォーゲル氏、危機管理は準備と予測が大切

PATAのリック・ヴォーゲル氏

 観光関連産業は世界のGDPの9.3%に寄与し、年間660兆円の経済活動を創出。雇用創出も2億6000万人(世界全体の雇用人口の11人に1人が観光関連産業に従事)にも及ぶ。観光は世界で主要な産業になっており、その危機管理は世界経済にとっても重要なテーマだ。

 シンポジウムでは、事業者ではなく地域の視点からイベントリスクにどのように対処していくべきか、観光危機管理の4つのRである「Reduction(減災)」「Readiness(危機への備え)」「Response(対応)」「Recovery(回復・復興)」をもとに議論が進められた。

 まずPATAのヴォーゲル氏が、PATAが独自に構築している危機管理マニュアルについて説明した。PATAでは、2006年に「Rapid Recovery Taskforce」を立ち上げ、危機管理の専門化を進め、2011年7月には「Bounce Back(回復)」と呼ばれるマニュアルを策定した。このマニュアルでは、4つのRをさらに細分化し、潜在的な観光リスクをリストアップするとともに、ケーススタディーも盛り込んだ。

 PATAでは、これをもとに独自に「Destcon(Destination Condition) System」という指標を作成。Destcon1から5にレベル分けし、Destcon1を同時多発テロのようなグローバルに大きな影響を及ぼすリスクと定義している。さらに、2011年の東日本大震災の際には通常の通信が途絶えたことを教訓に、ネットによるSNSの活用も盛り込んだ。

 ヴォーゲル氏は、このほか復興に向けた具体的な取り組みについても言及。東日本大震災後には、ウェブサイトで情報発信し、特に仙台空港再開などポジティブなニュースを正確に伝えることに努めた。また、グアムでの日本人観光客殺傷事件の際には、発生後すぐに現地にPATAの危機管理タスクフォースを派遣し、過大報道を避けるためにメディア向けの発表を支援した。

 ヴォーゲル氏は「危機の際には正確かつ迅速に真実を伝えることが重要。そのためには日頃から組織間の連携をはかり、信頼関係を作っていくことが大切になる」と発言。リスクマネージメントについては「準備をしておくこと。予測をすること。この2点が重要だ」と強調した。