新春トップインタビュー:日本旅行業協会会長 金井耿氏

  • 2012年1月10日

2012年は1780万人の壁破る年に
燃油や人材育成など取り組み進める

 東日本大震災の影響を大きく受けつつも需要は堅調に回復した2011年が終わり、2012年も微風ながら追い風の吹く中で始まっている。しかし、旅行業界はオンライン販売へのシフト、人材育成、燃油サーチャージの高騰といった従前の課題に加え、日系LCCの新規就航など未知のテーマにも直面している。震災によって社会全体が変化しつつあるとされる中、旅行会社と旅行業界はどのように変わっていくのか、あるいはどう変わるべきなのか。そのヒントを2011年の振り返りと2012年の展望とともに、日本旅行業協会(JATA)会長の金井耿氏に聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)


-2011年の総括をお聞かせください

金井耿氏(以下、敬称略) 1月、2月と好調な出だしだったが、東日本大震災で景色が全く変わってしまい、影響をどう克服していくかに終始した1年だった。ただ、当初考えたよりも回復のピッチが早く、今年度後半になって勢いが出てきたことは間違いない。これをどう2012年につなげていくかが非常に大きなポイントになると感じている。

 特に海外は回復傾向が強く、通年の出国者数が去年を上回ることがほぼ確実になっている。要因としては円高に加えて、自粛ムードが意外に早く解消されたというか、全体的に「打ちひしがれてばかりいてもしかたがない」といったムードになるのが早かったように思う。その意味では、「旅をしたい」、「旅行に出よう」という本来的な旅の欲求がむしろ素直に出るようになったということが全体的な背景としてあると見ている。

 一方、国内もかなり戻ってきてはいるものの、当然のことながら地域差がある。西高東低というか、西の方は九州新幹線開通もあり非常に元気が良いが、東、特に東北地方をどうやって早く復興させるかが大きな点だ。


-2012年の市場動向の見通しと、JATAの活動の方向性をお聞かせください

金井 やはり震災の影響はまだ様々な形で残るだろう。ただ、数字的なマイナス面だけでなく、旅の形や質が変わりつつある影響もある。

 日本の海外旅行市場は2000年に出国者数1780万人を記録して以来、10年以上それを超えられていない。私は、2012年というのは是非そこの壁を破る年にしたい。この壁を破れば景色が違ってくると思う。願望ではあるが、そういう取り組みを是非やってみたい。「いろんなことあった、これからもあるだろうけれども何があっても乗り越えていく」という気概を示すために、壁を破るということは象徴的な出来事になるのではないか。

 環境としては、例えば海外はロンドン五輪、日中国交正常化40周年、麗水の万博などいろいろなイベントが予定されており、それらが有利に働く可能性は十分にある。また円高は、極端になりすぎて景気に影響を与えて消費マインドを冷やす可能性が懸念されるが、高いうちはとにかく「行こうよ」というメッセージを出せる。

 我々としては、海外はこの勢いを持続し、より高めていくことがテーマになっていく。国内は東北復興が常にテーマとなる。西だけが良ければとういうわけでは当然無い。東にどう送客していくか、我々としてできることは何かという角度で取り組むべき1年になると思う。

 インバウンドは原発事故対応の進捗状況に左右されるが、回復させるための取り組みは間違いなく必要。そうした全体のなかで、何がおこるか分からないという覚悟を決め、なにがあっても乗り越えていくんだという強い意思を持たないとならない。