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羽田特集:航空券ホールセラーから見る需要動向(1)レジャー取込に手応え

  • 2011年2月15日
 昨年10月末に本格的に国際化された羽田空港。路線、便数ともまだ少ないが、消費者の関心は高く、航空業界や旅行業界から需要拡大の起爆剤として大きな期待が寄せられている。約3ヶ月がたった現在、需要の動向はどう推移しているのか。また、課題について、今回は航空券を販売するホールセラーの話から探る。                
                 
                                     
                          
                          
羽田国際化の需要効果はまだ限定的

 羽田空港の国際化はメディアでも大きく取り上げられ、世間の注目も高まった。では、実際に海外旅行市場に与えたインパクトは現在までのところどの程度なのだろうか。オーバーシーズトラベル(OTA)第一営業部販売課課長の奥泉敦仁氏は、「羽田国際化がなければ、ここまで需要の回復は早くなかったのではないか」と話す。しかし、供給量の増加に集客の増加は追いついておらず、需給のミスマッチで航空会社は価格帯を下げざるを得なったため、「昨年と比較すると、集客は回復しているものの、売上的には予想を下回っているのではないか」と分析する。

 また、エヌティーエス(NTS)航空営業部次長の篠原和儀氏は、航空券ホールセールの立場から、「正直なところ、全体の需要が増しているという実感はない。現状はまだ限定的。昼間の時間帯にロングの路線が就航するようになれば、状況は変わるだろう」との認識だ。クロノス・インターナショナル営業部販売課販売推進チーム係長の加本謙吾氏も、世間の注目は集めているとしつつ、具体的な国際線の中身については「まだ認知度が足りない」と見ている。

 同じく、チャイナエアライン(CI)の航空券を扱っているダイナスティーホリデーも、「現在のところ、羽田国際化によって新しい市場の形成や需要の拡大につながったという実感はない」という。各社の反応からすると、羽田国際化が海外旅行需要の起爆剤までにはなっていないようだ。


人気の昼間アジア線とシンガポール線

 そうした状況のなかでも、現在までのところ相対的に好調なのはアジア路線。特に興味深い傾向が出ているのがシンガポール航空(SQ)の羽田便だ。シンガポール線は、SQの1日2便に加えて、日系2社もそれぞれ1日1便を就航、成田便も運航しているため、当初は供給過多という懸念があった。しかし、クロノスによると、取り扱い件数ベースで、SQ全体の30%が羽田のシェアになっているという(2010年12月22日取材時点)。「成田便が食われたというよりも、全体でプラスになっている」と加本氏。その一因として、同社営業部販売課アジア・オセアニアチーム主任の徳山希美氏はSQ便のシンガポール到着時間から、「東南アジアへの乗り継ぎ需要の増加があるのではないか」と説明する。

 同様に、SQ航空券を扱っているOTAの奥泉氏も、「デンパサール、プーケットなどリゾート路線に乗り継げるので、SQ羽田便はレジャーにはメリット」と話す。同社では、羽田便が加わったことで、昨年11月と12月のSQの扱いが前年比30%増、羽田就航による成田便への影響も数字的にはないという。また、エバー航空(BR)の台北(松山空港)線も好調のようだ。クロノスのBR取扱件数のうち、同便のシェアは50%にも及ぶ(2010年12月22日取材時点)。

 加本氏は、「特に午前便が人気。2泊3日の旅程が可能になり、商品化もしやすくなったのではないか」と分析する。OTAでも「羽田就航に加えて、中国での(尖閣諸島)問題があったため」(奥泉氏)、台湾の需要が伸びており、同社が販売するBR利用のパッケージ商品エバーシオンの売れ行きも好調だ。

 他のアジア路線も、想定以上の需要拡大とはいかないまでも、ある程度の手応えは感じているようだ。マレーシア航空(MH)のコタキナバル線について、クロノスの加本氏は、「就航地がレジャーデスティネーションであるため、販売層が決まってくるものの、そのシェアはMH取扱件数のうち10%(2010年12月22日取材)」と明かす。キャセイパシフィック航空(CX)の香港線は「前年と同じ水準」とOTAの奥泉氏。NTSの篠原氏は「既存路線の韓国線の販売が伸びている」と話す。

 また、日系航空会社の扱いが多いトッパントラベルサービスの航空券ホールセラー部門ベルツアーズは、「近距離路線では羽田利用が増えている」との見解を示す。同じく日系航空会社の航空券をメインに扱うマイパックも「業務渡航で韓国、中国、台湾の反応がいい。ロングは不評」と回答。昼間時間帯に飛ぶ近距離路線のメリットは市場に受け入れられているようだ。


業務渡航の利用増は不透明

 羽田便の旅客層については、各社とも正確な数字は把握していないという前提ながらも、当初想定よりもレジャー客は多いと感じている。ダイナスティーホリデーは「午前便は業務渡航、午後便はレジャー、という既定路線は再検討する必要があるのではないか」として、午前便の出発時間が早いというデメリットを、台北で過ごす時間が長なるというメリットに置き換えてレジャー向けの販促を進めていく考えだ。

 また、クロノスの徳山氏は「航空会社の多くが当初は業務渡航がメインターゲットと言っていたが、飛び始めるとレジャーの需要も多いという航空会社も出てきた」と話す。OTAの奥泉氏はSQの羽田便について「昼間の時間帯なら、業務渡航のメリットを出せるだろうが、深夜便では難しいのでは」と疑問を呈する一方、「企業のインセンティブからの反応はいい」という。同様に、ベルツアーズも深夜早朝便に関しては、「ステータスの高い客層には不人気」とするものの、「サラリーマンやOL層の安・近・短デスティネーションへの週末レジャーは増えているのではないか」との感触だ。

 今後、北米キャリアが羽田便を深夜早朝時間帯で就航させる。デスティネーションを見ると、ニューヨーク、デトロイト、ロサンゼルスなどビジネス需要が見込まれる都市が多い。深夜便のマーケットがどう動くのか。注目されるところだ。


取材:山田友樹