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取材ノート:羽田空港拡張の未来図、期待と果たすべき役割−航空政策研究会

  • 2010年12月8日
 羽田空港のD滑走路供用開始と発着容量の拡大、それに伴う再国際化が首都圏や日本の経済、さらに旅行にどのような役割を果たすのか。航空政策研究会が先ごろ開催した航空シンポジウム「維新を迎えたわが国の航空」では、東京都副知事の猪瀬直樹氏をはじめ幅広い分野のパネリストが登壇し、羽田の容量拡大とビジネスチャンスについて議論。今後の課題が見えてきた。        
                            
                               
                                 
モデレーター
山内弘隆氏(一橋大学大学院商学研究科教授) 
パネリスト
猪瀬直樹氏(作家、東京都副知事)
白石真澄氏(関西大学政策創造学部教授)
土井勝二氏(日本空港ビルデング代表取締役副社長)
石津緒氏(国土交通省航空局次長)



羽田拡張の効果は観光客の増加とビジネスチャンスの創出

 羽田空港の拡張の意義について、猪瀬氏は「日本の人口が減少する時代に海外から人を呼ぶための活性剤」との見方で、「羽田、成田が一緒に海外からの訪問客を誘致しなければならない」という。また、拡張の効果としては「観光客の増加」「ビジネスのスピードの加速」「国際会議の誘致増(=ビジネス機会の創出)」の3点をあげる。

 白石氏も同様の考え。消費者の立場では仕事後に海外に出発できる夜のフライトがあることをはじめ、空港へのアクセスや内際乗り継ぎの利便性の高さ、さらに新規航空会社の参入で選択肢が増えた点をメリットと指摘。また、航空会社の立場では深夜の機材活用ができ、一般企業ではビジネスチャンスが拡大している。特に、流通面では海外からの製品が到着した当日に日本全国へ配送できるため、羽田空港近くに倉庫を構えた流通会社もあったという。

 石津氏は羽田と成田の2空港で国内線、国際線で運用してきた内際分離の歴史を話しつつ、今後は「容量が足りずにできなかったことが、D滑走路の供用開始でできる」とし、成田と羽田の競争と連携が進むとの考えを示す。特に、連携面では深夜に着陸できない成田の代替として羽田の利用や、競争面では成田の発着枠拡大への取り組みがあるとの考えだ。すでに成田空港では、D滑走路の供用開始で増枠した11万回のうち、半分強の6万回が国際線に割り当てられたことに触発されたのか、地元を巻き込んで発着枠を30万回へと増加させようという動きが加速している。


グラウンド・デザインで訪日客受入れ準備を

 羽田の容量拡大、それに呼応する成田の発着回数の増加は観光のみならず、ひいては日本経済の活性化につながるとパネリストは見る。白石氏は「日本の人口は今後50年で3700万人が減っていく。47都道府県のうち29県の人口がなくなる時代」と予測したうえで、今後の航空政策のグランド・デザインとして「人口の多い地域へ集中投資」、「空港を活用した観光客誘致」、「人口減少の対応」の3点が必要と課題を提示。特に観光客誘致については、「滑走路の建設、延伸はインフラ整備。これはいろはの『い』。単に容量が増えるから誘客するというのではなく、滑走路の延伸で日本をどのように売っていくか全体をデザインする必要がある」といい、滑走路の延伸が旅客増や経済発展に寄与できるデザインを描くことが重要という考えだ。

 猪瀬氏は、観光客誘致のグランド・デザインの考え方として、「中国の人口13億人のうち2億人から3億人が海外旅行し、その10%が日本に来ると仮定すれば2000万人以上」といい、約1億人の日本の人口に対し2000万人の中国人が日本に来た時を想像することが求められているという。また、「現実に世界は(日本を)知らない」ことが海外からの観光客の誘致で大きな課題といい、東京へのオリンピック誘致活動を引きあいに「まずは海外の方に来てもらうための活動をすることが大切」と力説する。

 誘致の一例として、東京都の水道インフラの海外への輸出をあげ、こうした海外へのセールス活動が日本への国際会議の誘致につながり、結果的に訪問者が増加すると力説する。会議の開催で海外のビジネスパーソンが相次いで日本を訪れ、その過程でビジネスジェットの利用も増えると想定。羽田空港でビジネスジェット利用者のCIQ対応を含む利便性を高めていかなければならないともいう。

 つまり、羽田の拡張で期待される訪日客の増加を実現するには、インフラだけでは十分といえず、海外からの観光客や日本へのビジネスの誘致につなげるという「日本を売りこむ」視点が重要だ。猪瀬氏は「日本の人口の1割は海外からの訪問客であると見据えたサービス、体制作りが必要」と強調。インフラを活用しつつ、サービスや利便性、特徴を打ち出した一体的な誘致活動が求められている。


羽田・成田が一体となった広域圏での誘客に期待

 航空業界を取り巻く環境変化は著しい。日米オープンスカイ、羽田空港にはLCCのエア・アジアX(D7)が就航し、複数の会社が日本市場に参入しているほか、東アジア地域でのハブ空港の整備が進む。日本でもスカイマーク(BC)がエアバスA380型機を購入、国際線への参入を表明したほか、全日空(NH)の出資によるLCCの設立など、航空業界の競争の激化と劇的な変化が予想される。

 石津氏は航空行政として「LCC受け入れの阻害要因を取り除き、規制を見直している」と述べ、これまで航空機を利用しなかった層の利用増加を見込む。また、フルサービスキャリアがアライアンスを強化しており、独占禁止法の適用除外でスケジュール、価格調整が進み、運賃の下落を想定。これは旅客需要の増加の誘引材料になるとみる。

 土井氏は「航空会社間の競争と同じく、空港会社間の競争も激化する。これに打ち勝たないといけない」とするものの、「羽田と成田の2空港で10万回ずつ、計20万回程度の発着数の増加は、LCCの参入やオープンスカイが進む状況ではむしろ足りない」として、2空港の連携強化を進めたいという。こうした考えに山内氏はロンドン・ヒースロー空港を運営する英空港管理会社(BAA)を例に、各空港間の競争と旅客サービスの向上をねらい、日本でも1つの会社が複数の空港を運営、かつ海外に進出することを視野に入れたサービスや経営をしていく方向が望ましいとする考えを披露する。

 これらの動きに猪瀬氏は成田、羽田の一体運用が、負の効果とならないような工夫が必要と警鐘を鳴らす。例えば、交通インフラでは新幹線の開業が地元への経済効果を高めることが期待されていたが、単に駅が建設されただけでは素通り需要もあるため、効果が望めない場合もあるという。

 つまり、成田と羽田の場合は、「ゆっくり成田、すぐ羽田」という、時間にゆとりがあるレジャー目的の旅客と、業務性渡航やビジネスでの活用といったスピードを求める異なる需要を2空港で一体的に対応し、それにあわせた運用と使い分けが不可欠との認識だ。こうした視点を持ちつつ「2空港を取り巻く広域で日本を売り込んでほしい。市よりは県、圏でセールスをし、誘致先の国が魅力的と思える観光素材を連携して売っていくことで、誘客の可能性が高まる」と白石氏がいうように、羽田の拡張は各所が連携して誘客することで、その効果が活かされるようになるといえる。