甘くほろ苦いチョコレートの旅(2)オーストリア、デメル


1786年、皇室や貴族専用の菓子職人であったルートヴィッヒ・デーネが、王宮劇場前に店を開いたのがデメルのはじまり。やがて貴族に支持されるようになった店は、1799年にウィーン王宮御用達の菓子司となる。当時、店と劇場は地下道でつながれ、催し物があるたびに菓子がそこを運ばれていた。最初のアシスタントだったクリストフ・デメルが1857年に店の経営を引継ぎ、店名が「デメル」となった。
しかし、ザッハトルテの発祥は実はデメルではない。その起こりは16歳の料理人のフランツ・ザッハが1832年に作ったチョコレートケーキだ。フランツはやがて独立し、菓子店を開業。息子の代にカフェを併設したホテル「ホテル・ザッハ」がオープンし、その名物となる。

このため、ザッハは1938年にデメルを提訴。7年に及ぶ裁判の結果、双方のケーキをザッハトルテとして売ることが認められた。どちらかのケーキが消えてしまうことを案じたファンが、裁判所に嘆願書を送ったともいう。裁判はザッハのケーキをオリジナルとし、ケーキに載せるチョコプレートについて、ザッハは円いものを、デメルは三角形のものを用いるよう定めた。この「甘い戦争」は、ザッハトルテの名をより広く知らしめる結果となった。
ウィーンのデメル本店は、王宮前から北東に延びるコールマルクトにある。建物はサロンのように優雅なロココ調で、雰囲気の違ういくつもの部屋に分かれている。この建物の3階で、かつてカーターとブレジネフの米ソ首脳会談が開かれたのは、いかにもウィーンらしい話だ。ケーキ、焼き菓子、チョコレートなど、菓子の種類の多さはウィーン随一。もちろんザッハトルテもあるので、かつての「甘い戦争」に思いを馳せながら味わってみたい。

▽デメル・ジャパン
http://www.demel.co.jp/
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