ルフトハンザ、環境問題担当責任者のハーグ博士−「旅行」の視野から環境を語る

  • 2008年12月17日
 ルフトハンザ・ドイツ航空(LH)が先ごろ開催した環境フォーラムで、来日したカールハインツ・ハーグ博士に旅行を中心とした視点から、環境問題への取り組みを聞いた。ハーグ氏は、旅客への環境活動への参加、航空業界におけるルフトハンザの取り組み、そして鉄道と航空の協力について語った。


■旅客が参加できる環境活動とは

 個人、法人を対象に、それぞれカーボン・オフセットの仕組みを用意している。個人向けには、搭乗するフライトで排出する温室効果ガスを計算し、旅客が任意に相殺(オフセット)する量を選択できる。ヨーロッパでのオンライン予約は、予約する過程においてプログラムへの参加の意向を確認し、旅客の環境意識を喚起している。さらに、旅客はフリークエント・フライヤー・プログラム(FFP)の「マイルズ&モア」で累積するマイルを使用し、植樹をはじめとする環境活動に貢献することもできる。

 法人向けプログラムでは、出張をはじめ業務渡航で利用する際のフライトを対象とする。個人向けと仕組みは似ているが、個人向けはカーボン・オフセット・プログラムそのものをLHが契約するNGOを利用するのが、法人向けでは企業側が自社の環境戦略に基づき、特定のNGOや企業が展開するカーボン・オフセット・プログラムを自由に選択できるようにしている。


■航空業界におけるLHの取り組み

 LHは環境問題への取り組みとして、機体の整備、運航高度やスピードの効率化、140億ユーロ(約1兆6750億円)を投じる機材の更新など、対応は多岐にわたる。こうした一連の動きは、国際航空運送協会(IATA)の環境保全に向けた基幹戦略に沿ったもの。また、フランクフルトに開設したオフィスビルは、地下に大規模な熱交換システムを導入するなど「省エネ」をテーマとしており、従来の同サイズのビルと比べてエネルギー消費量が3分の1に抑えられている。関連する調査も常に実施しており、こうした取り組みは1995年以来、年刊の環境レポート「バランス」のなかで紹介してきている。

 代替燃料の検討、ヨーロッパの管制システムの効率化、排出権取引システムの導入などにも取り組んでいる。代替燃料は、現在の化石燃料の代替として、短期的よりも長期的な視野から必要な取り組みと認識。LHでは複数の会社と研究を進めており、今年中か来年の初めに商業飛行の認可を得られるという。さらに、燃料の費用、調達にあたる手間なども勘案し、近いうちに商業飛行に向けた取り組みを開始するという。

 排出権取引システムは、現在の状態ではヨーロッパの航空会社だけが任意で参加するシステムでは、ヨーロッパ系航空会社の競争力に影響が出る。国際民間航空機関(ICAO)は、「ポスト京都議定書」のプロセスで航空産業が役割を果たせるようにする義務がある。IATAも排出権取引が世界的に導入されることを基幹戦略の1つに定めている。


■鉄道との環境面での競合は

 鉄道との競合は、あらゆる側面があるにも関わらず、局部的な事象が誇張されすぎているように感じる。IATAの調査によると、航空輸送の85%は鉄道や車での代替は出来ないという。さらに、鉄道の環境負荷は、昨今の鉄道の高速化により、多くのエネルギー消費を招くと考えられる。スピードが速くなれば、必要とするエネルギーが増えるのは当然だ。また、鉄道は線路を敷設しなければならず、「土地の利用」という視点から問題を考えなければならない。

 ただし、航空と鉄道は競争よりも、相互の利益のために協力できるはずだ。すでにLHでも、シュトゥットガルト/フランクフルト間をはじめ、高速鉄道とコードシェアする「エア・レイル」を開始している。さらなる協力のカギは、航空と鉄道の効率性の「境界」だろう。その境界より短い区間では鉄道の運送効率が良く、環境負荷も低い。一方で、逆になる例もある。その境界がどこにあるか未解決の問題で、おおよそ400キロメートルから500キロメートルあたりと思われる。調査で境界線が判明すれば、協力関係を構築しやすくなるだろう。