ビジネストラベラー:これからの旅行会社、航空会社は予約・手配以上のサービスが重要

  • 2007年12月5日
今回ご登場いただくのは、三菱銀行時代にアメリカや中東、アジアなどで豊富な海外駐在経験のある、冨山雅人氏。現在も大手PR会社であるオズマピーアールの常務取締役として、ビジネス渡航の機会が多い。旅行会社スタッフよりも豊富といえる多様な海外経験から、海外駐在や渡航をする上で必要だと思う事柄や危機回避方法などを伺った。
(聞き手:山見インテグレーター代表、山見博康氏)
※2006年10月、月刊トラベルビジョン掲載
                                                                      
                                                                    
海外経験は30ヶ国以上、日常生活に文化を感じる町に魅力あり

Q:まずは三菱銀行時代の駐在先を教えてください

 初めての駐在はアラビア語研修生として赴いたカイロ。そしてロンドン、バーレーン、ニューヨーク、マレーシア、ボンベイ(ムンバイ)などです。そのほか、出張などでシンガポール、タイ、台湾、香港、中国、UAE、カタール、クウェート、オマーン、ヨルダン、サウジアラビア、トルコ、ベルギー、オーストリア、オランダ、スイス、ルクセンブルグ、ドイツ、ギリシャ、フランス、イタリア、キプロスなどに行きましたから、計30ヶ国以上を訪れたことになります。

Q:国際的なご活躍ですが、初渡航はいつ頃だったのでしょう?

 1974年の就職直前に、大阪のYMCAで3ヶ月の英語集中コースを受講しました。その後、英会話力を磨いた成果を試そうと、ハワイへひとり旅に出かけたのが、最初の海外旅行だったのですよ。

 その後の1976年、日米会話学院に語学研修生として6ヶ月間フルタイムでみっちり鍛えられ、その間にスタディツアーでアメリカに1ヶ月行きました。そして1982年、初の業務としての海外経験となるカイロ駐在となったのです。その後は先ほどお話した通りですが、とにかく銀行でも珍しいほど多くの国を経験させてもらいましたね。私はとても運がよかったと喜んでいます。

Q:豊富な海外経験の中で、印象に残る町はどんな場所ですか?

 いろいろな国に行き、それぞれ印象的な町が多いのですが、ヨーロッパではミュンヘンとロンドンが好きです。その共通項は、美しい公園が多く、その中に美術館があり、日常生活の中に文化を感じる町だということです。

 アジアでは、マレーシアのクアラルンプールとペナンが好きです。日本人に優しく、物価は安い上に治安も良いし、イスラムの国ですが自由でとても住みやすい場所だと思います。人々が素朴で、都会にもかかわらず、すれていないところもいいですね。マハティール元首相の、ルックイースト政策のおかげで、経済発展の模範国・日本に対する敬意のようなものが根底にあったようにも思います。

Q:冨山さんが推奨する穴場的な観光地を教えてください

 実はアラブ諸国にも観光地がたくさんあります。世界的な遺跡はエジプトのほかシリア、ヨルダンにも数多いですし、駱駝での砂漠ツアーも魅力。一方、ドバイは世界に通じる一大リゾート地。また、オマーンの海に迫る岩石の景観など魅力満載というところです。早く平和になって欲しいですね。

 また、インドのコルカタの西北に、ブッダガヤというお釈迦様が悟りをひらいたという町があります。そこに行くにはカルカッタから車で1日くらい。道路の穴凹を避けて延々くねくねと進んでいきます。仏教の聖地として立派な寺院があります。また、お釈迦様が悟りをひらいて初めて説教した「鹿苑(ろくおん)」、三蔵法師も勉強したナーランダの大学など、その地方には仏教遺跡の見どころが多いのです。これぞインド!というお勧めの地域です。観光地とはいえホテルも少なく、まだまだ日本人も少ないので、穴場と言えると思いますよ。


相手の文化、宗教に敬意を払うことが大切

Q:これだけの国に行かれていると、ハプニングも多かったのではないでしょうか?

 そうですね、思いがけないこともありましたね。例えば、バーレーンに駐在していた時のこと。バーレーンは中東なのに飲酒が許されており比較的自由ですが、常に緊張感が必要。ちょっと気を抜いたため、大変な目に遭いそうになりました。

 アブダビに駐在の友人が帰任直前に遊びに来たので、内陸部の展望の良い小高い丘にドライブに出かけた時のことです。後ろからジープが追いかけてきました。何だろうと思ったものの、運転を続けていたら、“ストップ!”の合図がかかり、急停車。武器を持った兵隊です。そこは以前から時々行っていた場所だったので安心していたのですが、どうも「軍の禁止区域」だったようです。カタコトのアラビア語で必死に言い訳しなんとか放免してもらいました。後で友人は「一旦は帰任を諦めた」と言っていました。語学が役立って本当に嬉しかったですが、もし、そこで下手に侮辱した態度などをとったら刑務所行きだったでしょう。

 バーレーンは西洋化され自由といわれますが、イラクによるクウェート侵攻で一日で国が無くなる地域の国で、イスラム教が生活の基本。国家の安全保障や宗教観など生活感覚が日本と全く違います。違いを理解して相手国の文化・宗教・あるいは慣習などに敬意を払う姿勢が大切ですね。これはどこの国でもビジネスでも同じで、理解と敬意を欠いて意見すれば傲慢になり、信頼は得られません。

Q:旅先で身を守るために気をつけていることはありますか?

 なんといっても、危険な所には絶対近づかないことに尽きます。一人で行動しないことも絶対です。現地に不案内な日本人だけの行動も避けるべきでしょう。それに、必要以上のチャレンジ精神でいろいろと試そうとすることもNGです。時々若い人に見かけますが、何かあると取り返しがつきません。

 できるだけ旅行者のような服装をせず、周りを見回さず前を見て歩き、現地の居住者のように振舞っています。パスポートはコピーし、必要以上の現金は持たないようにしています。お金も何ヶ所かに分けて持つようにしているんですよ。ただ、アメリカは9.11以降、常にパスポートは現物提示を求められますが。

 これまで盗難に遭ったことは一度もありません。四方八方を良く注意することです。一方通行を逆から入ってくる車も時にいますし、上からゴミが降ってくる街もありますから、危険ですよ。

 危機に対する感性も大切ですが、とにかく無理をしないことです。それに「自分だけは大丈夫」という過信、ある意味で傲慢な姿勢も、事件・事故に巻き込まれる理由だと思います。


素早い対応と「脱日常の演出」を期待

Q:旅行会社への要望はありますか?

 実は私は「一般旅行取扱主任者」の資格を持っています。海外経験が生きて合格することが出来ました。ですから、発券以外のことはだいたい自分でできます。

 でも、ビジネスの場合に旅行会社が素早く対応してくれると大助かりです。ビジネスでは予定を早く固めてしまいたいし、予定変更はしょっちゅう。旅行会社がすぐに動いてフライト、ホテルを固めてくれると嬉しいですね。

 また、レジャーの場合は、非日常の時間空間を楽しみたい。旅程の相談からそんな脱日常を安心して楽しく過ごせるように演出して欲しいですね。これは海外経験の多寡に関係ないと思います。

Q:最近はシステム環境が向上し、たとえ専門知識や資格がなくても、自分で手配しやすくなりました。そういう意味では、旅行会社は手配以外の要素がより求められているといえますね。ところで、最近の出張ではどこに行かれましたか?

 8月にマカオと香港へ行ってきました。次回は来年春までに香港か中国に行くことになるでしょう。昨年の11月には久しぶりにニューヨークに行きましたよ。
 その時、グラウンド・ゼロを見て、とてもショックを受けました。ちょうどモニュメント建造ための基礎工事中でしたが、言葉がありませんでした。というのも、ワールドトレードセンターにある三菱銀行の支店で勤務していた87年当時を思い出したからです。

Q:よく利用する航空会社はありますか?

 アジアではシンガポール航空をよく利用します。機体がきれいだし、サービスも良く、総合的に安心感があるのです。日本から行く場合はほとんど全日空です。親友が勤めているせいもあるのでしょうが、何かしら接遇などに人情味がありますよ。逆にあまり好きじゃないのは、サービスに高慢さが感じられるようなエアライン。どこかよそよそしかったり、冷たい感じを受けると、また利用したいとは思いませんからね。



冨山雅人(とみやま まさと)氏
株式会社オズマピーアール
常務取締役

1974年 京都大学法学部卒業後、三菱銀行(96年に東京銀行との合併で
東京三菱銀行、現・三菱東京UFJ 銀行)に入行。
関西での勤務を経て、1976年に日米会話学院で語学研修派遣へ
1982年 アラビア語研修生としてカイロ駐在
1985年  バーレーン駐在員事務所勤務
1987年 情報開発部調査役・部長代理に就任。
一時ニューヨークにも駐在。1992年にマレーシア駐在へ。
1994年 川崎支店副支店長就任。その後1996年 ボンベイ支店副支店長
1999年 麻布支店長就任、2000年 赤坂支社長就任
2003年 オズマピーアールへ出向し、2004年より現職