法律豆知識(118)、航空会社に預けた受託手荷物の紛失(その1)
<はじめに>
航空会社に手荷物を預けたところ、鍵を壊されて中の物が紛失したというトラブルは多い。ところが、パソコンやデジタルカメラなどが紛失した時に、航空会社から約款により、パソコンやデジタルカメラは預かれないことになっているので、紛失については責任をとれないと言われ、賠償してもらえなかったというトラブルを聞く。
また、米国が出発地又は寄港地の場合、手荷物の錠を閉めないよう求められ、その結果、中味の荷物が紛失したところ、航空会社は自分の責任でないと言って賠償を拒絶するというケースもあるようだ。現に、本コーナーにもそのような事例が寄せられているので、これらの点について検討しよう。
<条約というものの特質>
国際運送に関しては、モントリオール条約が存在し、条約が基礎となってトラブルの解決がはかられることになる。このことは、本コーナーの第100回から繰り返し説明した。しかし、条約というものは細部についてまで規定されていないということをまず知っておいて欲しい。
各国の国内法制や判例は、各国ごとにまちまちである。イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリアなど、アングロサクソン系の国は『コモンロー』というわれる判例法が支配している。その他の国、すなわちイギリスを除くヨーロッパ諸国や日本を含めたアジア諸国等の大部分は、ローマ法(古代ローマ帝国の民法典)を基礎にしているので、コモンロー国とローマ法国の間は基本が異なる。が、それぞれの法体系国の間では、基礎的な法体系は共通している。しかし、具体的な適用の問題となると、各国でかなり異なるのだ。
そこで、条約は細部まで規定せず、細部は各国の国内立法や判例の蓄積に任せている。従って、具体的なケースの解決としては、その国の法律や裁判所の判断で、解決を図る必要があるのだ。
<古い約款と担当職員の無知>
トラブルが起こったときに、航空会社は、約款を持ち出して、自分たちには責任がないと主張してくることが多い。ところがその約款は、必ずしもモントリオール条約に従っているとは限らないことに注意すべきだ。
モントリオール条約では、条約の規定以上に厳しい責任を航空会社に課すのは有効だが、逆に、航空会社に有利にする規定は無効とすることになっている。ところが、実際の約款は、古いワルソー条約時代の規定をそのまま残し、モントリオール条約では無効な規定が堂々と記載されていることが多い。
モントリオール条約は、出発地と到着地が締約国なら適用されるが、いずれかの一方が非締約国だと適用されない。そこで、締約国所属の航空会社も、モントリオール条約の適用されないフライトがあり得るので、ワルソー条約時代の規定を残しているわけである。
日本航空や全日空は、モントリオール条約が適応される場合とそうでない場合を書き分けているが、世界には、そのような親切な航空会社ばかりではない。
問題は、このような書き分けがない航空会社で、いざトラブルが生じたときに、担当職員が、モントリオール条約の適用されるべきケースにもかかわらず、ワルソー時代の条項を持ち出してくることである。当の本人は、モントリオール条約とワルソー条約の区別が付いていないことも往々にしてあり、自信満々な対応をして、やっかいなことに発展するケースもある。旅客側は、それ以上に分っておらず、結局、モントリオール条約下のケースが、ワルソー条約下の規定で押し切られ、旅客が不利な扱いを受けることもある。
<次回は、以上を前提に、個別ケースを検討しよう>
航空会社に手荷物を預けたところ、鍵を壊されて中の物が紛失したというトラブルは多い。ところが、パソコンやデジタルカメラなどが紛失した時に、航空会社から約款により、パソコンやデジタルカメラは預かれないことになっているので、紛失については責任をとれないと言われ、賠償してもらえなかったというトラブルを聞く。
また、米国が出発地又は寄港地の場合、手荷物の錠を閉めないよう求められ、その結果、中味の荷物が紛失したところ、航空会社は自分の責任でないと言って賠償を拒絶するというケースもあるようだ。現に、本コーナーにもそのような事例が寄せられているので、これらの点について検討しよう。
<条約というものの特質>
国際運送に関しては、モントリオール条約が存在し、条約が基礎となってトラブルの解決がはかられることになる。このことは、本コーナーの第100回から繰り返し説明した。しかし、条約というものは細部についてまで規定されていないということをまず知っておいて欲しい。
各国の国内法制や判例は、各国ごとにまちまちである。イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリアなど、アングロサクソン系の国は『コモンロー』というわれる判例法が支配している。その他の国、すなわちイギリスを除くヨーロッパ諸国や日本を含めたアジア諸国等の大部分は、ローマ法(古代ローマ帝国の民法典)を基礎にしているので、コモンロー国とローマ法国の間は基本が異なる。が、それぞれの法体系国の間では、基礎的な法体系は共通している。しかし、具体的な適用の問題となると、各国でかなり異なるのだ。
そこで、条約は細部まで規定せず、細部は各国の国内立法や判例の蓄積に任せている。従って、具体的なケースの解決としては、その国の法律や裁判所の判断で、解決を図る必要があるのだ。
<古い約款と担当職員の無知>
トラブルが起こったときに、航空会社は、約款を持ち出して、自分たちには責任がないと主張してくることが多い。ところがその約款は、必ずしもモントリオール条約に従っているとは限らないことに注意すべきだ。
モントリオール条約では、条約の規定以上に厳しい責任を航空会社に課すのは有効だが、逆に、航空会社に有利にする規定は無効とすることになっている。ところが、実際の約款は、古いワルソー条約時代の規定をそのまま残し、モントリオール条約では無効な規定が堂々と記載されていることが多い。
モントリオール条約は、出発地と到着地が締約国なら適用されるが、いずれかの一方が非締約国だと適用されない。そこで、締約国所属の航空会社も、モントリオール条約の適用されないフライトがあり得るので、ワルソー条約時代の規定を残しているわけである。
日本航空や全日空は、モントリオール条約が適応される場合とそうでない場合を書き分けているが、世界には、そのような親切な航空会社ばかりではない。
問題は、このような書き分けがない航空会社で、いざトラブルが生じたときに、担当職員が、モントリオール条約の適用されるべきケースにもかかわらず、ワルソー時代の条項を持ち出してくることである。当の本人は、モントリオール条約とワルソー条約の区別が付いていないことも往々にしてあり、自信満々な対応をして、やっかいなことに発展するケースもある。旅客側は、それ以上に分っておらず、結局、モントリオール条約下のケースが、ワルソー条約下の規定で押し切られ、旅客が不利な扱いを受けることもある。
<次回は、以上を前提に、個別ケースを検討しよう>