法律豆知識(109)、犯罪歴とビザの関係(その2)
<ビザ申請にあたって>
前回に続き、ビザと前科の関係を検討することにしよう。
前科、前歴は、ビザ申請にあたって記入する必要がある場合、どこまで記入すべきかが問題となる。「10年以上前の少年事件の処分歴を記入すべきですか」などと質問を受ける。しかし、前回述べた通り、私には、各国のビザ申請にあたっての正確な情報がない。
そこで「前歴は時効がないので、処分歴も前歴として記入しておいて、それが問題となるかどうかは、相手国に判断してもらった方がいいですよ。あとからバレて、虚偽申告ということで不利益に扱われるのが一番バカバカしいですから」と、答えることにしている。
問い合わせると親切に教えてくれる国もあるので、私は「念のため、事前に大使館に問い合わせて、書く必要があるか聞いた方がいいですよ。答えてくれる場合も結構あります」と、付け加えることにしている。
もちろん、ビザ申請にあたり、前科のみを聞いてくる場合もある。その時は、前歴は必要ないので、執行猶予期間が満了しているもの、あるいは、前科が時効で消滅しているものについては記載する必要はない。
<前科、前歴で入国を拒絶される例>
団体旅行で、1人だけ入国を拒絶されて恥をかかされたというケースは多い。その場合、「何で事前に教えてくれなかったのだ」とクレームを付けられて、当惑した旅行業界の関係者も多いことだろう。仮に事前に相談されても、前科、前歴の内容によっても扱いが異なり、国によっても扱いが異なる。
私自身も、「わいせつ罪の前歴があるのだけど、大丈夫だろうか」などと質問されることがあるが、この質問にも残念ながら答えられない。ただし、薬物やわいせつ事犯、売春事件、子供に対する犯罪、パスポート偽造などの罪は、どの国でも扱いは厳しいようだ。
また、国としては、テロ対策で極端に神経質になっているアメリカはとりわけ厳しい。イギリスやオーストラリアもそれに近い。逆に、東南アジア、その他発展途上国はおおらかな国が多いようだが、中には厳しい国もあると聞くので、一定の対応が必要だろう。
同じアメリカでも、ハワイはことに厳しいという話は良く聞くが、これは事実のようだ。となると、アメリカなど厳しくしている国が、いかなる方法で個人の犯罪情報を手に入れているか知りたいところだが、私も判らない。
また、日本の何らかの機関が、外国に自国民の犯罪情報を流しているのかどうかも、私にはわからない。個々のケースを見ている限りでは、その情報をどのように入手したのか、驚くようなケースも多い。外国が日本人の個人情報を、一般に思われている以上に正確に把握していることは間違いない。国同士が、情報を共有しあっているということもありえるようだ。
<無犯罪証明書>
ビザ申請にあたり、「無犯罪証明書」の提出を求められることも多い。
無犯罪証明書は、聞き慣れない言葉であるが、前科の有無を証明してもらうもので、都道府県警察本部に申請して受け取ることができる(海外では、日本大使館等を通じて申請することになる)。これは封をして渡されるのだが、何が書いてあるか心配になって自分で開封すると無効となるので注意されたい。
アメリカでは、犯罪は「Felony(重罪)」と「Misdemeanor(軽罪)」に分かれる。交通違反や単なる傷害罪等の後者に当たる場合ならば、ほとんど問題視されないようだ。ただし、虚偽申告に対しては厳しいので注意が必要だ。どの国の場合も、正直に申告して、あとは相手国の判断に任せるというのが、もっとも安全なようである。
=====< 法律豆知識 バックナンバー>=====
第108回 犯罪歴とビザの関係(その1)
第107回 旅行業者も下請保護法の対象に
第106回 海外留学の「商法」−業務提供誘引販売の注意点
第105回 バスの中で盗難にあった場合の責任は
第104回 「白バス」乗車で事故発生の責任
第103回 フライト・キャンセルからの紛争・解決に向けた提案(4)
第102回 フライト・キャンセルからの紛争(3)
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※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com
執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/
前回に続き、ビザと前科の関係を検討することにしよう。
前科、前歴は、ビザ申請にあたって記入する必要がある場合、どこまで記入すべきかが問題となる。「10年以上前の少年事件の処分歴を記入すべきですか」などと質問を受ける。しかし、前回述べた通り、私には、各国のビザ申請にあたっての正確な情報がない。
そこで「前歴は時効がないので、処分歴も前歴として記入しておいて、それが問題となるかどうかは、相手国に判断してもらった方がいいですよ。あとからバレて、虚偽申告ということで不利益に扱われるのが一番バカバカしいですから」と、答えることにしている。
問い合わせると親切に教えてくれる国もあるので、私は「念のため、事前に大使館に問い合わせて、書く必要があるか聞いた方がいいですよ。答えてくれる場合も結構あります」と、付け加えることにしている。
もちろん、ビザ申請にあたり、前科のみを聞いてくる場合もある。その時は、前歴は必要ないので、執行猶予期間が満了しているもの、あるいは、前科が時効で消滅しているものについては記載する必要はない。
<前科、前歴で入国を拒絶される例>
団体旅行で、1人だけ入国を拒絶されて恥をかかされたというケースは多い。その場合、「何で事前に教えてくれなかったのだ」とクレームを付けられて、当惑した旅行業界の関係者も多いことだろう。仮に事前に相談されても、前科、前歴の内容によっても扱いが異なり、国によっても扱いが異なる。
私自身も、「わいせつ罪の前歴があるのだけど、大丈夫だろうか」などと質問されることがあるが、この質問にも残念ながら答えられない。ただし、薬物やわいせつ事犯、売春事件、子供に対する犯罪、パスポート偽造などの罪は、どの国でも扱いは厳しいようだ。
また、国としては、テロ対策で極端に神経質になっているアメリカはとりわけ厳しい。イギリスやオーストラリアもそれに近い。逆に、東南アジア、その他発展途上国はおおらかな国が多いようだが、中には厳しい国もあると聞くので、一定の対応が必要だろう。
同じアメリカでも、ハワイはことに厳しいという話は良く聞くが、これは事実のようだ。となると、アメリカなど厳しくしている国が、いかなる方法で個人の犯罪情報を手に入れているか知りたいところだが、私も判らない。
また、日本の何らかの機関が、外国に自国民の犯罪情報を流しているのかどうかも、私にはわからない。個々のケースを見ている限りでは、その情報をどのように入手したのか、驚くようなケースも多い。外国が日本人の個人情報を、一般に思われている以上に正確に把握していることは間違いない。国同士が、情報を共有しあっているということもありえるようだ。
<無犯罪証明書>
ビザ申請にあたり、「無犯罪証明書」の提出を求められることも多い。
無犯罪証明書は、聞き慣れない言葉であるが、前科の有無を証明してもらうもので、都道府県警察本部に申請して受け取ることができる(海外では、日本大使館等を通じて申請することになる)。これは封をして渡されるのだが、何が書いてあるか心配になって自分で開封すると無効となるので注意されたい。
アメリカでは、犯罪は「Felony(重罪)」と「Misdemeanor(軽罪)」に分かれる。交通違反や単なる傷害罪等の後者に当たる場合ならば、ほとんど問題視されないようだ。ただし、虚偽申告に対しては厳しいので注意が必要だ。どの国の場合も、正直に申告して、あとは相手国の判断に任せるというのが、もっとも安全なようである。
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第107回 旅行業者も下請保護法の対象に
第106回 海外留学の「商法」−業務提供誘引販売の注意点
第105回 バスの中で盗難にあった場合の責任は
第104回 「白バス」乗車で事故発生の責任
第103回 フライト・キャンセルからの紛争・解決に向けた提案(4)
第102回 フライト・キャンセルからの紛争(3)
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