法律豆知識(87)、航空会社のストと困った客〜約款・消費者保護と事後対応

  • 2006年4月22日
 ケース


 今回は、最近の相談事例から、旅行者、旅行会社ともに再考して欲しいケースを紹介し、検討しよう。

 相談が寄せられたのは、オーロラを見るパックツアーでのこと。コペンハーゲン経由で、現地に行く予定であった。ツアー催行前には、「コペンハーゲンから現地への便を飛ばす航空会社がストをやるかもしれない」という情報が旅行業者に伝わっていた。これを受け、旅行業者は出発前にその旨、旅行者に伝え、日本を出発した。
 実際にコペンハーゲンに到着すると、やはりストが決行され、コペンハーゲン以遠については、一日遅れで現地に出発することとなった。ところが、旅行者の中で、一人が「ストが判っているのに出発させたのはおかしい」と怒りだし、現地に出発することを拒否。結果として、コペンハーゲンのホテルに3日間、延泊し単独で帰国した。そして、帰国後、「ストになるのに出発させたのは納得できない。旅行代金全額返せ」と言ってきかない、というのだ。


 スト情報と契約解除の関係


 サービス業をやっていると、このような依怙地な人には泣かされる。普通の人が普通にとる行動をとらないからだ。
 ところで、航空会社のスト情報は、事前に判明するのが普通だ。しかし、ストが予想されても、実際に決行されるか否か、その時にならないと判らない。労使双方は、直前まで、交渉しているのが普通だからである。また、その航空会社の全てが運航を取りやめる訳でもない。運航する便もあるのが、航空各社の通例である。乗継便の航空会社にスト情報があったとしても、上記のように航空会社の対応状況を考えれば、乗継地まで行かないと判らないのが普通だ。ストが決行されても、利用を予定する乗継便は運航されることもあり、振替便が用意される場合もある。

 ストの場合の契約解除の処理については、旅行契約約款では解決が付いた問題だろう。2005年4月の改正で、旅行者による取消料無しの解除が認められる条件に関する部分が改訂されたからだ。
 以前は、「運送機関の旅行サービス提供の中止の事由により」とあったのが、「運送機関の旅行サービス提供の中止の事由が生じた場合において」と改められた(16条2項3号)。つまり、事由が「現に生じた」ことが前提となったのである。このように限定されたことにより、ストが予想されるだけでは、消費者は契約を解除できなくなった。利用する便について、ストが決行されることが決定してはじめて、「現に生じた」と言うことになるからである。


 消費者契約法の観点から


 ただし、消費者契約法上は、消費者に的確な情報提供することを求めており、重要情報の提供が欠けると契約解除もありうる事態となる。
 この相談事例の場合は、ストによりオーロラを見る日数が一日減るだけであるから、重要事項とは言えないだろう。あるいは、ストの決行により、目的とするオーロラ見学が出来なくなるケースであれば、スト情報は重要度の高い情報となる。消費者に対して告知せずに決行すると、解除もありうると言える。

 とは言うものの、旅行業者は、消費者契約法上の重要事項に当たるかどうかに関わりなく、スト情報は確実にキャッチし、ストがあるかもしれないと言うこと、また、実際にスト決行の場合にどのような事態、対応となるかの予測(今回の相談事例では、現地入りが一日遅れ、オーロラを見る日数が1日減ること)を早めに伝えなければならない。
 ただし、旅行者は、このようなスト情報だけでは、キャンセル料無しの取消しが出来ないのは、前述の約款の16条2項3号にある「現に生じた」ことを前提とするためである。


 今回の処理


 今回の困った旅行者が、現地に行かなかったと言うのは、「権利放棄」にあたる。旅行業者は、現地往復分の旅行費用を返還するには及ばない。また、コペンハーゲンの延泊費用は、旅行者自身が払う費用である。
 ただし、この件は、本人が現地に行かないことによって浮いた費用と、延泊の宿泊料を相殺して解決した。解決としては、すわりは良い。だが、本来は、旅行業者が妥協する必要は無かったケースである。依怙地な対応をすれば、決まりごとはどうにかなる、と言うのもやや問題があるし、依怙地な旅行者を顧客とするサービス業もつらいものである。



   =====< 法律豆知識 バックナンバー>=====

第86回 グループ・ブッキングについて〜国際旅行法学会の準備原稿

第85回 景品表示法と広告〜第2回 「おとり広告」とは?

第84回 景品表示法と広告〜第1回 日本航空の広告から

第83回 上空からの鑑賞ツアー、悪天候での催行中止の責任は?

第82回 添乗員が旅先で病気に、その対策と対処

第81回 最近の相談事例から〜準備のための視察旅行は誰の負担か


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編集部: editor@travel-vision-jp.com

執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
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