【Founder’s Eye】旅行会社は本当に不要になるのか、OTA台頭時との違いと共通点-「予約業」から「アクセス業」へ

  • 2026年8月21日

20年ほど前、私たちはOTAの出現に不安を感じていた。
黎明期には、彼らが提示する「低価格」に脅威を感じ、その数年後の普及期になると、「ネットで比較」⇒「口コミ等を参考」⇒「最安値を確認」⇒「自分で予約する」という消費者の行動変容こそが本当の脅威であることに気づき、実際、移動や宿泊手段のみを求める顧客の予約はあっという間にOTAへ流れた。
一方、並行してOTAは大手旅行会社との提携、ホールセラーを介した中小規模旅行会社のインフラとなり始め、今では規模を問わず、多くの旅行会社に取って必要不可欠な存在になっている。
端的に言えば、OTAが奪ったのは、単純な航空券やホテルの予約需要であり、一方でもたらしたのは、世界中の在庫へアクセスできる巨大な流通インフラだった。

酷な言い方になるが、OTAが旅行会社を不要にしたのではない。OTAで代替できる価値だけを提供していた会社が、市場から姿を消したのである。
OTAをインフラとして上手に使い、決して代替されない価値を提供していた会社には不利益のみならず、提供サービスの高付加価値化推進や多角化への取組加速というプラスもあったように思う。

では、今我々が対処に頭を悩ましているAIに関しては、どうだろう。

AIの第一ブームは1960年前後、そこから生成AI時代(ChatGPT登場)に入るまでに約60年、そこから「AIすごい」と驚き試して見る⇒「仕事に取り込む」までは周知のように僅か数年。

旅行業界でも既にAIをアシスタントとして、旅程作成や見積り、メール返信等に活用している会社は多い。ようするに今は、AIによる業務効率化のメリットを享受している時代。
しかし、この幸福な時代はあくまで筆者の肌感覚だが、おそらくそう長くは無いだろう。

AIがいわゆるエージェントとして機能し始めれば、顧客は目的地や日程、同行者、予算などをAIに伝えるだけで、航空券やホテルの予約、保険加入の要否、ビザ要件まで瞬時に提案されるようになるだろう。しかし、この時代まではまだ、AIを十分に使いこなせない人に代わって、AIにプロンプトを入れる、相談に乗るようなニーズは一定量残る可能性はある。

そしてその次にはAIが自律実行することが一般化し、これまでのAIとのやり取りも踏まえ、プロンプトで指示していない希望まで理解・推察し、決済やトラブル対応までAIで完結するようになるだろう。ここまで来ると、多くの旅行者にとって「AIに任せる」が普通になる。

AIのもたらす行動変容はOTAの比ではないだろう。
しかし、我々はOTAを活用し、OTAが代替できない事に注力し、今日まで生き残った経験を有している。
そしてやるべきことは同じだろう、AIを使い倒しながら、AIには決して出来ない事を特定し、そこを磨きに磨き、新たな価値として提供する。

それは何なのか。
AIによって、人の価値は「情報を持っていること」ではなく、「その場へ行けること」「信頼されていること」「紹介できること」へ移る。
だからこそ、これから重用されるのは、AIより多くの知識を持つ人ではない。
その土地に住み、人と人との信頼関係を築き、自ら体験し、一般には公開されていない場所や人へ案内できる人だ。
優れたガイド、地域を知り尽くした専門家、特別な知見を持つスペシャリスト、そして長い時間をかけて信頼を築き、一般には実現できない出会いや体験を提供できる人。
AIは情報にはアクセスできても、人間関係にはアクセスできない。
だからこそ、旅行会社の役割も変わる。情報を提供することではなく、人にしか開けない扉を開くことである。

AI時代に問われるのは、「何を予約できるか」ではない。「誰に会えるか」「何にアクセスできるか」である。自社が提供しているのは「予約」なのか、それとも「アクセス」なのか。その問いに向き合い、既にある信頼関係をより大事に深く、新たな信頼関係構築に力を注ぎたいと思っている。

今月の一軒(出張メシ)

■Bar 4Dears(山形)

山形駅からほど近い場所にある、山形をこよなく愛するマスターバーテンダーの営むオーセンティックバー。
ウィスキーやカクテルはもちろん、フルーツ王国山形ならではの特別なフルーツが揃う。
希少ゆえ買えない、1箱買うには躊躇する高級品もあり、それらを使ったカクテルをお客の好みやマスターバーテンダーの見立てでかなりリーズナブルに提供してくれる。
山形へ行かれたら是非ここで〆の一杯を。

岡田直樹
エフネス(トラベルビジョン)Founder。旅行業界向けメディアの運営を軸に、観光領域の事業開発に取組む。