変化のスピード-ベルトラ創業者 荒木篤実氏

乗客下車後、次の顧客を迎えに自動運転を再開する無人のロボタクシー(深圳)

 取引先訪問のため、中国の深圳に短期出張をした。いろいろな企業を訪問したが、今回は街全体から受けた印象をレポートしてみようと思う。

 往路復路とも、香港経由にしたのは、香港との違いも肌感覚でつかむためと、越境の手間がどのぐらいか実体験する必要があると考えたからだ。その印象を一言でいえば、別の香港がもう1つできていた、といえばイメージが湧くだろうか。

 もともとは田舎だった町を、人工的に近代的な都市に造り変えた、その意味では、第一印象として、街全体がラスベガスのようだ、と感じた。

 さて、実際に街に入り、人々の動きをみていて、まず違和感を感じたのは、街中のどこにも老人がいない、ということだった。

 実際、訪問先の大手IT企業のビルの前で、先方の責任者を待っていた際のことである。途切れることなく、若者が、しかもとても仕事をしにくるとは思えないような姿格好で、かつ手ぶらで会社に出勤してくる。これは何なのだ、と驚いた。10万人も社員がいるのだから、自然といえば自然であるが、自分が初めて日本の製造業に勤務していた頃の朝の出社風景からは、あまりにほど遠い雰囲気に、しばし言葉を失った。

 翌日には、現地旅行会社も訪問、こちらは、深圳の発祥の地にオフィスがあり、どこか上海にも似ており、ほのぼのとした、なつかしさを感じさせる街並みと人々であった。打ち合わせ後、深圳の秋葉原といわれる地域が近いということで視察してみることにした。想像していたよりは、完成品で卸売色の強い個人商店の集まり、というイメージであった。が、ここでやっと老人に出会えたことが印象的だった。彼らは呼び込みで高級時計を販売する売り子だと判明。なんとも時代に取り残された人たちが、外人観光客目当ての売り込みという旧態依然とした商売をしていたのであった。そのどこかなつかしい後ろ姿には、なんとも、時代に取り残された人の哀愁を感じた。変化のスピードとは残酷なものである。

 最後にここ数年で話題になっているロボットタクシーの試乗について報告してみよう。特に何か期待していたというより、実態を調査させてもらうつもりでトライした。深圳の新開発エリアへ10分ほどの短い行程だった。率直な感想は、免許取り立ての新米ドライバーの運転よりはずっとまし。細かいことだが、シートベルトをしてない乗客がいると発車しないのは、よくできている仕組みだと感じた。いざ走り出すと、基本、違和感はまったくない。緊張するのは、追い越し、交差点での右左折時、バイクが接近してきた時ぐらいであった。が、カメラがあちこちついているので、流石に全て把握しているとな、という安定感あるオペレーションであった。目的地に到着時、料金はもちろん自動払いで勝手に支払いも済んでいたが、驚愕したのは、その値段である。市街地とはいえ10分ほどの距離で、料金はなんとたったの120円であった。キャンペーン価格なのかもだが、もしこれがこのまま世界中に浸透したら、いったい何人のタクシードライバーが失業するか、知れたものではない。暴動どころの騒ぎではおさまらないだろう。そう思うと少しぞっとした。

 最後のまとめとしては、失うものがない、それがどれほど強いことか、改めて実感できた訪問であった。シンガポール、ルクセンブルク、深圳。そもそもなんの資源もない国や都市が、世界で戦うためにとった戦略。それは市場開放と、官民一体での民間主導、そしてスピード重視。この3点セットだ。認識はしていたつもりだが、変化のスピードに負けない人と文化をもつ企業だけが世界で戦える真のエクセレントカンパニーたり得ることを痛感させられた数日間であった。

荒木篤実
パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。ベンチャー経営とITマーケティングが専門。ITを道具に企業成長の本質を追求する投資家兼実業家。