「NOと言わない16年」──学術・業務渡航の“指揮者”、グローカル 川西嘉隆氏の仕事哲学

 学術渡航や業務渡航といった、旅行業の中でも最も細やかな調整力が求められる領域に約 16 年携わってきた株式会社グローカル代表・川西嘉隆氏。京都を拠点に、日本から海外への渡航手配は勿論、海外から研究者を招く「海外発航空券」や、複雑な国際会議の手配、専門性の高い観光手配まで幅広く対応し、“NOと言わない姿勢”で独自の信頼を築いてきた。本記事では、川西氏に「業務渡航の現場」「難しい依頼への向き合い方」、そして「今後の展望」を聞いた。

-まずはご経歴についてお聞かせください。

川西 嘉隆 氏(以下敬称略) 前職は、格安航空券を利用した業務渡航やオーダーメード旅行を得意としていた京都の旅行会社に勤務し、そこで業務渡航のスキルを磨きました。その会社から「暖簾分け」のような形で2009年12月に独立しました。

前職の社長の社員の育て方は「いつか会社から独立し、旅行業を“継続”していくこと」に重きを置く方でした。厳しくも人情味あるフィロソフィーの中で育てられた私が「いつか独立したい」という思いを持つことは自然なことでした。独立の決め手は、安定した中間管理職を抜け出し、もっと枠にとらわれない自由な環境で仕事がしたいと思ったことです。社員である以上、手を出せない分野やリスクを取りづらい部分がありますが、自分なら成功できる!と信じる領域に、リスクを取ってでも、挑戦したいと思ったのです。

-グローカルが扱う業務の特徴や強みは何でしょうか?

川西 創業当初から現在に至るまで、業務渡航を中心に手掛ける中で、大学ごとに異なる煩雑な書式形態にも対応しています。ご利用者は大学関係の研究者や共同研究での企業社員で、近年特に増えたのが、大学や研究機関が海外から研究者を招く際の海外発航空券の手配 です。この分野が増えたのは、私たちがチャレンジを続けてきた結果です。今でこそネットで簡単に調達できますが、15年前はリスクのあるLCCやオフラインキャリアを積極的に扱う旅行会社は多くありませんでした。私たちは、さまざまなリスクを回避するために、時には直接現地に確認し、手配チャンネルを広げ、多くのお客様から信頼を得てきました。

業務渡航は、参加者本人の意向だけでは成立しません。最終決定権は主催者(研究主任、或いはその秘書や事務局長)にあります。参加者と主催者、双方の言い分を調整することが何より重要です。特に難しいのは、日本の学会事務局が日本以外の第三国で国際会議を開催するケースです。世界各地から第三国に集まる航空券手配は、スピードが要求される中で運賃変動リスクもあり、非常に繊細な判断が求められます。

航空券は基本的にGDSで予約、発券しますが、場合によっては航空会社のサイトや海外旅行会社からの仕入れも行います。時には「他の旅行会社で受けてもらえない」案件を解決することも稀ではありません。その時に「NOと言わない」姿勢 が評価され、リピーターからの紹介も広がっていきました。

-難しい依頼やトラブル対応で印象に残っているエピソードはありますか?

川西 ある国際映画祭のノミネート監督の招聘を第1回から担当しています。映画祭の特徴なのか、社会派のテーマを扱う監督も多く、あまり経済的に豊かではない国から招聘される方もいて、持ち金が少なく、クレジットカードもない中、空港から会場までの陸路をキャッシュレスでどう確保するか、腐心しなければならないことがありました。

また、イタリアの企業幹部を日本企業の幹部と交流させる研修ツアーでは、国柄の違いに苦労しました。道端でいきなり30分を超える議論を始めて次のアポイントに遅れそうになるなど、「まず議論ありき」の文化を肌で感じました。

海外からの招聘では、航空券だけでなく滞在中のランド手配も行います。学術系のお客様らしく、釧路湿原での調査を兼ねたツアーや、自然環境を説明できる専門ガイドの手配など、非常にユニークな要望もありました。

研究員が出世するとスポンサーが変わり、そのスポンサーの要望で大手旅行会社に案件が移ることもありますが、大手では要望に対応しきれず弊社へ依頼が戻ってくるケースもあります。