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【弁護士に聞く】開始まであと1年、インボイス制度の基本と観光産業の対応

インボイス制度の問題点

 さて、前項で「おさらい」と題したのは、インボイス制度に関しては、一般紙にも何度か取り上げられ、インターネットでは多くの税理士事務所等が競って、簡明な解説記事をアップしており、少なくとも事業者であれば、周知されているだろうという認識からだ。ところが、来年10月1日までに適格請求書発行事業者になるためには、来年3月31日までに登録する必要があるが、東京商工リサーチの調査によれば今年10月末の登録率は37.1%、個人企業は14.9%と低迷しているという。

 恐らく、事業者はインボイス制度の概要は理解しながら、その問題点に躊躇しているのだろう。国税庁によるインボイス制度導入の理由は、2019年10月1日から軽減税率制度が導入されたことから複数税率になったので、正確な消費税の計算のために必要ということにある。しかし、実務的には今でも行われている税率によって区分した請求書でも事足りるし、別に税務署に登録して登録番号の付与を受けるまでの必要性があるのか疑問であり、どうも税務署の税務調査の便宜のための制度と疑わざるを得ない。特に、登録は課税事業者でなければできないとされているため、年間課税売上高1000万円以下の納税義務を免除されている小規模事業者は、登録するためには課税事業者を選択する旨の届出をして、課税事業者にならなければならない。登録は任意といっても、適格請求書を発行できなければ、取引相手は仕入税額控除ができないことから、免税事業者とは取引をしないか、仕入税額相当分の値引きを要求されることも予想され、国税庁の狙いは正に免税事業者の課税事業者への炙り出しにあると指摘される所以である。

 観光産業でいえば、着地型でオプショナルツアーを販売している地方の小規模旅行会社、通訳、ガイド、直受けしている添乗員、空港のグリーティング業者、ハイヤー業者等が思案のしどころで、今、様子見をしている状況にあるのだろう。「STOP!インボイス」なる団体も結成されているが、ここまでくれば導入は必至と思われる。相手先事業者からの消費税相当額の値引き要求は、時期が近づけば公正取引委員会から優越的地位の濫用を理由に警告が発せられるだろうから怖くないが、取引を忌避されては売上げは0になる。課税事業者となって登録を受けたうえで、経費が少なければ簡易課税制度のみなし経費率の適用を受けることで、少しでも手取金額を維持する防衛手段を税理士とともに検討すべき時期である。


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三浦雅生 弁護士
75年司法試験合格。76年明治大学法学部卒業。78年東京弁護士会に弁護士登録。91年に社団法人日本旅行業協会(JATA)「90年代の旅行業法制を考える会」、92年に運輸省「旅行業務適正化対策研究会」、93年に運輸省「旅行業問題研究会」、02年に国土交通省「旅行業法等検討懇談会」の各委員を歴任。15年2月観光庁「OTAガイドライン策定検討委員会」委員、同年11月国土交通省・厚生労働省「「民泊サービス」のあり方に関する検討会」委員、16年1月国土交通省「軽井沢バス事故対策検討委員会」委員、同年10月観光庁「新たな時代の旅行業法制に関する検討会」委員、17年6月新宿区民泊問題対策検討会議副議長、世田谷区民泊検討委員会委員長に各就任。