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多様なマーケットに提供する価格の多様性を 観光立国へは生産性、価格設定などに課題-Rakuten Optimism 2022

  • 2022年10月4日
トークセッションはオンラインで配信

 楽天グループは、同社のエコシステムの概念やサービスへの理解促進と共有の場としてオンラインイベント「Rakuten Optimism 2022」を開催した。楽天が関わる各領域の第一人者が登壇し、旅行分野では小西美術工藝社代表取締役社長デービッド・アトキンソン氏に楽天グループトラベル&モビリティ事業事業長高野芳行氏(高ははしごだか)が質問する形で「新観光立国論・世界一訪れたい国になるには?」と題するトークセッションが行われた。

設備投資による高付加価値化

 まず、GDPにおける観光業のシェアが日本は世界より低いことについて、アトキンソン氏は、観光資源のインフラ・設備投資が足りていないと指摘。「高度成長期に作られた団体客を効率的に受け入れるための施設は付加価値が低いものとなってしまった。さらに、低価格化によって設備投資が進まないことで、価値も価格も高められず、旅行者は海外に行くという悪循環を作ってしまった。そこで、観光戦略関連の会議で旅客税で財源を確保して、徹底的にインフラや設備投資をするように提言した。実際に設備投資をしているところほど栄えている」と話す。

小西美術工藝社代表取締役社長デービッド・アトキンソン氏

 『新・観光立国論』(2015年)では、当時の日本の観光戦略は歴史文化財、漫画やアニメなど文化以外のコンテンツを出さないのはおかしいと指摘したかったとアトキンソン氏はいう。「観光は多様なコンテンツがあって成立するもの。日本人でも1日1食しか食べない和食や実在しないサムライ文化のアピール、朝から晩まで歴史や文化を見たい人はいない」とし、特に2週間から3週間過ごすヨーロッパ人は滞在中ずっと和のコンテンツを見たいわけではなく、家族で訪れていればそれぞれにやりたいことがあるので、そういう多様なニーズに対応する素材を全て出さないと来る人は限定されると主張。アニメだけでは大きな数にはつながらないという。

 同氏が日本政府観光局の顧問となって訴求したのが自然のアクティビティだった。日本は自然を観光素材として認識せず、国立公園などをアピールしていなかったが、「世界最大の観光資源は自然」と主張する同氏は、冬のスキーから亜熱帯の沖縄のビーチまで気候の変化を楽しむコンテンツ、山登りや川くだりなどのアクティビティを打ち出した。食事も和食一辺倒でなく、カフェや洋食など多様なコンテンツを整備、発信することも自治体に進言したとこれまで取り組んだ施策を振り返った。

宿泊飲食の生産性向上なしには観光立国になれない

楽天グループトラベル&モビリティ事業高野事業長

 日本の宿泊飲食サービスの労働生産性がアメリカやフランスの半分以下、という高野氏の提示には「宿泊飲食が観光収入の半分を占めるので、その生産性が上がらないと観光立国にはならない」と指摘。生産性が低い要因としては、宿泊施設の稼働率が低く、需要の発掘やマーケット分析ができていないことを挙げた。日本の企業の99.7%を占め、社員数も少ない中小企業はデジタル化が進まず、ビッグデータが得られないため商品開発につながらない。デジタル化やインバウンド対応にも人材は必要だが、最低限まで人数を削ってきた中小企業の仕組みでは発展性がないため、合併や連携の道もあると示唆した。例えばこれまでFAXでやっていた部分を楽天のような企業と組んでデジタル化を進めることで、生産性の向上、稼働率の平準化につながるという。

 さらに、宿泊施設の価格設定にも疑問を呈し、「日本はいいもの安くというが、ビジネスホテルのように安いものをよくしているだけ。訪日客が1万円以上出せるのに1万円のホテルしか提供してないのは問題で、多様なマーケットに提供する価格の多様性がない」。5つ星ホテルはアメリカには700軒以上、バリ島でも42軒あるが、日本は30軒以下と少なく、そうなると価格を高くできない。「日本は安くていい国と自慢するだけでは何のプラスにもならない」と説く。

2025年前後にコロナ前の水準に回復

 円安によるインバウンドへの期待についても「観光客数と為替に相関関係はない」と一刀両断。「旅行者は旅先に高揚感を求めるため高くても行きたい国に行く。世界一の観光収入のあるアメリカは安くないし、フランスも高い。日本は安いから行きたい対象ではない」。円安によって日本で落とす金額が増えるので、お金を落としてもらう工夫が必要だと訴える。

 アトキンソン氏による訪日客の予測では、2023年では670万人、2024年に2000万人、2025年前後にコロナ前の水準に回復すると見ている。旅行業が主要産業であり続けるか、との問いには、「度重なる戦争やペストの流行などにもかかわらず、ローマ帝国時代からずっと観光は存在し、どこかに行きたいという人間の欲望は消えることはない」と答えた。

 最後に事業者へのメッセージとして、「インバウンドも国内の観光客もやりたいことは同じ。重要なのは、観光客に楽しく過ごしてもらって、お金を落としてもらう好循環を作ること。それが地方創生につながり、国が栄えて低賃金の問題を解決する。人口が減少する中、賃金を上げないと日本経済が良くなることはない。インバウンドが戻ってくるときがチャンスなので、安売りせず最大限活用して稼げばいい」と締めくくった。