「のぼせもん」が見る伝統産業の課題と選択-有田焼しん窯8代目当主 梶原茂弘氏、伝統工芸士 橋口博之氏

  • 2021年12月6日

作り手と買い手の距離を縮めて「行ってみたい町」へ
これからは個々の窯にこだわらないチームが必要

 「有田焼」と聞くと、美術品や日常使いにはちょっと手が出しづらい食器を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。かつて国内でなくてはならない存在感を誇った陶器産業だが、近年は生活様式の変化や輸入品の拡大を受けて市場は減少し、そこにコロナ禍が更なる追い打ちをかけている。観光産業に相通じる課題を抱える業界で、伝統を守りながらも生き残りをかけた変化への挑戦を続ける「のぼせもん(佐賀の言葉で熱血漢)」、有田焼しん窯の8代目当主の梶原茂弘氏と伝統工芸士の橋口博之氏に話を聞いた。

左が伝統工芸士の橋口博之氏、右が8代目当主の梶原茂弘氏

-はじめにしん窯の紹介と自己紹介をお願いいたします。

梶原茂弘氏(以下敬称略) 有田焼の産地・佐賀県有田町に工房を構えるしん窯は、1830年(天保年間)に創業し、鍋島藩の指導の下に民窯として築かれました。私は8代目の当主です。1976年にオリジナルの「青花」ブランドを立ち上げ、温もりのある藍色と白の染付や、手で描くという職人の技にこだわりを持ってこれまで歩んできました。

橋口博之氏(以下敬称略) 私は1983年にしん窯に入社し、現在は専務取締役を務めています。1996年に伊万里・有田焼下絵付伝統工芸士の認定を取得し、九州や東京で作陶展も行いながら、手作りと手描きにこだわるしん窯で日々に寄りそう器や作品作りを続けています。

梶原 有田焼は天然の陶石を主原料とした強く美しい磁器であるというのが普遍的な特徴です。一方、在り方としては多様性があり、何でも作れます。食器だけではなくスイッチカバーや表札、シンクなど、焼き物でできるものは何でも取り組むという心意気もあります。

 また、特徴はオープンな窯であることです。工房見学も自由で、今まで国内外から多くの観光客の方々にお越しいただきました。ユニバーサルデザイン食器の制作やLGBTについての学びも早いうちから取り組んできました。

-有田焼の市場規模は1990年前後をピークに減少傾向にあると聞きます。

梶原 有田は営業用食器と日常食器と美術工芸品、そして工業用製品で成り立っています。1990年前後をピークにすべての分野で飽和状態になり、以降は減少傾向を辿っています。今は特にコロナ禍の影響で、飲食店で使用される営業用食器の需要が壊滅状態にあります。

 昨年と今年はこれまでに経験したことのない業績となりました。陶器は市場に飽和しており、100円ショップでも買えます。そのなかで有田焼を手に取ってもらうための営業は非常に難しいものを感じています。

橋口 一方でコロナ禍中も、個人向けのオーダーメイド商品の受注は大きくは減りませんでした。すべての製品に手描きで柄を入れていますので、ひとつひとつ微妙に風合いや加飾が異なり、その魅力は評価され続けています。

梶原 流通の在り方も様々ですが、直販以外の流通があったからこそ一定の数が捌け、しん窯を知ってもらうことができたので、その流通を担ってくださった取引先を無碍にはできません。

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