ベストシーズン再発見(1)限られた時期しか見られない貴重な野生動物の姿

  • 2010年11月20日
〜顧客が希望する出発月から、最適なデスティネーションを提案〜
 この時期しか会社を休めない。子供の学校を休ませるとしたら、この時期しかない。インセンティブツアーは、取引先の仕事が一段落するこの時期しか選択肢がない──。個人旅行でも団体旅行でも、日本人の海外旅行は出発できる期間が制約されることが少なくない。そのため、顧客の希望する出発日から、ベストな旅行先を提案できる知識が求められる。この連載では、世界的なビジュアル誌「ナショナルジオグラフィック」の「一生に一度だけの旅」シリーズとして刊行された書籍「世界のベストシーズン&プラン」の記事をもとに、様々な視点から世界の旅行先の「ベストシーズン」を考えてみたい。


南極クルーズでペンギンの親子を見るなら1月から2月

 テーマ型の海外旅行のなかでも、野生動物を見に行く旅行には根強い人気がある。野生動物に出会えるかどうかは「運」の要素も強いが、その確率を上げるにはより確実に見られる時期、つまり、その“ベストシーズン”を正確に知っておくことが、旅行のプロとして求められる。

 例えば、南極クルーズの旅。そもそも、南極へのクルーズ船の運航は夏季(11月から3月)のみに限定される。南極は地球上に残された数少ない手つかずの土地だけに、アザラシやクジラ、オットセイなどさまざまな野生動物の姿を見ることができるが、中でも、ペンギン・ウォッチングを楽しむならベストシーズンは1月から2月。ペンギンは12月に産卵するので、1月から2月が子育てシーズン。この時期に南極を訪ねれば、かわいらしいペンギンの親子が見られるだろう。本書でも、「綿毛に包まれた、ぽっちゃりしたヒナが巣の中で大切に世話されている姿を見られる」とその魅力を紹介している。

 南極クルーズツアーの企画、販売業務を2004年から担当し、昨年まで添乗員として毎年ツアーに同行した経験を持つクラブツーリズム海外SIT旅行センターの太田綾香氏によると、数百羽から数千羽の野生ペンギンの圧巻な光景が見られることは、南極クルーズに参加する顧客の一番の動機であり、「特に、ヒナの愛くるしい姿を見られるかどうかは重要なポイント」。南極クルーズで見られるペンギンは、ジェンツーペンギン、ヒゲペンギン、アデリーペンギンの3種類といわれるが、このうち「クルーズの航路によっては、アデリーペンギンはなかなか見ることができない」という。

 ただ、「船酔い」という点では、2月の中旬から下旬は注意が必要のようだ。「南米大陸と南極半島の間のドレーク海峡を通過する際、耐氷船はこの期間に船の揺れがひどくなる傾向があるため、特にシニアの顧客にはあまりお薦めできない時期」と、太田氏はアドバイスする。大半のツアーの旅行代金が100万円以上にもなる南極クルーズの旅は、顧客にとっては「一生に一度の旅」になる可能性が高いだけに、常に最新の情報を入手して、ベストシーズンを案内したいものだ。


オーストラリアのニンガルー・リーフで、ジンベイザメと泳ぐなら3月から6月

 ダイバーが1度は一緒に泳ぎたい憧れの海洋生物として名前をあげるのが、世界最大の魚であるジンベイザメ。最長18メートルを超えるものもいるとされるが、その性格はいたっておとなしく、人間に危害を加える心配はない。広く世界の海に生息しているが、中でも、オーストラリア西部のニンガルー・リーフは「ジンベイザメと泳げる場所」として、世界的に有名だ。全長260キロに及ぶニンガルー・リーフは、一帯のリーフがビーチ際から広がっているのが最大の特徴。西オーストラリア州の州都であるパースから、観光の拠点となる町エクスマウスに近いリアマンス空港まで、小型飛行機で3時間ほどかかる。

 インド洋に生息するジンベイザメがニンガルー・リーフにやって来る時期は3月から6月に限られる。そのため、ジンベイザメと泳ぐことを目的に同地を訪れるなら、この時期がベストシーズンとなる。

 ジンベイザメはプランクトンと小魚しか食べない。ニンガルー・リーフでは毎年3月からサンゴの産卵のシーズンを迎えるが、産卵にあわせてプランクトンが増えるため、この時期にジンベイザメがやって来る。ジンベイザメとの遊泳がシュノーケリングで気軽に楽しめるのもセールスポイントで、西オーストラリア州政府観光局日本局長の吉澤英樹氏は「海洋生物の宝庫ともいわれるニンガルー・リーフには数多くの訴求点があるが、当局では、何よりも“ジンベイザメと泳げる”ことを前面に押し出してプロモーションに力を入れている」と語る。遭遇率もかなり高いようで、「これまでの例を見ても、4月から6月の期間であれば、ほぼ100%の確率でジンベイザメが見られる」という。

 一方、ジンベイザメとほぼ同時期に見られるサンゴの産卵自体も、それ自体が息をのむほどの壮麗な光景だ。本書では「サンゴが産卵するのは3月と4月の満月の後の数日間。数百万というピンク色のサンゴの卵が、妖艶な光を発しながらシャンパンの泡のように浮かんでいる海。その中を泳いでいる自分の姿を想像できるだろうか」と、その美しさを紹介している。


執筆:浅山真
立教大学観光学科卒業後、東急観光入社。1990年日経BP社入社。「旅名人」副編集長などを経て、2009年1月に日経ナショナルジオグラフィック社の企画編集ディレクターに就任。
http://www.nationalgeographic.jp/

出典:「世界のベストシーズン&プラン」 2010年10月発行
英BBC放送の旅番組のプロデューサーなどを務める著名な旅行ライターが、世界の人気観光地について「ベストシーズン」をキーワードに厳選した海外旅行の指南書。旅のタイプを6つに分類し、各月ごとにおすすめの場所をモデルプラン付きで紹介している。





出典:「世界のベストシーズン&プラン」 2010年10月発行
英BBC放送の旅番組のプロデューサーなどを務める著名な旅行ライターが、世界の人気観光地について「ベストシーズン」をキーワードに厳選した海外旅行の指南書。旅のタイプを6つに分類し、各月ごとにおすすめの場所をモデルプラン付きで紹介している。