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取材ノート:市場拡大の真価が問われる2011年−クルーズシンポジウム(2)

  • 2010年9月29日
 「ジャパン・クルーズ・シンポジウム」の開催地となった福岡は、中国発着のクルーズを中心に続々と外航客船が来港し、日本でのクルーズ拠点として注目されている。インバウンドの受入れ体制の整備以外に、ソースマーケットとして日本人を送り出すハブ港としての意識もある。アウトバウンドを促進する決定打は、2011年に大量供給される予定のカジュアルクルーズ。今回は日本のアウトバウンド・クルーズ市場活性化について、同シンポジウムの議論をまとめた。
                                        
                                        
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日本のクルーズマーケット拡大に向けて

 クルーズ客船の誘致の上でもアウトバウンドの需要を増やさなければ、安定的な配船を実現することは難しいとの指摘がある。この指摘に応えて、同シンポジウム開催地の福岡市港湾局局長の池田薫氏は、博多港の課題として「インバウンドとアウトバウンドの均衡」をあげる。ただし、アウトバウンドのクルーズは日本で長く取り組まれてきたものの、思うような成果は得られていない。

 市場の伸び悩みを分かりやすく表すのは、イギリスと比較した数値だ。日本で初の客船が建造され、「クルーズ元年」と謳った1989年の翌年の1990年、日本とイギリスはほぼ同じ市場規模で、イギリスが18万人、日本は17万5000人であった。しかし、その18年後の2008年はイギリスは147万人だが、日本は19万人と20年前とほぼ同じ水準にある。(表1)

 その理由として、九州運輸局次長の澤山健一氏をはじめ複数の登壇者が指摘する点は、日本ではクルーズ船が「ラグジュアリー」という認知になっていること。クルーズは高級なもので贅沢な遊びという認識が広まっているという。ただし、現在は中国を発地とするクルーズ客船が増加しており、この動向をきっかけに日本でのクルーズに対する新しい認識として、「カジュアル」への理解が深まると期待されている。




2011年は日本市場の本当の潜在力が測られる

 今年、ゴールデンウィーク期間を含む日程で日本への配船を実施したロイヤル・カリビアン・インターナショナル(RCI)。横浜発着で設定した「レジェンド・オブ・ザ・シーズ」の定員は1804名で、2出発日とも発売から約1ヶ月で完売した。日本で最も人口の多い首都圏にカジュアルクルーズを投入したことが、早期の完売にこぎつけられた要因かもしれない。

 RCIでは2011年も引き続き、横浜発着のクルーズを設定する。設定本数は3本で昨年から1本増加。8泊コースに加え、大阪から乗船する7泊コースもあわせて市場の拡大を促す。コスタクルーズも2011年5月から10月の期間、福岡発着で32本を設定する。「コスタ・クラシカ」の定員は1680名で、4泊5日のショートクルーズを中心に、5泊6日や6泊7日をそろえる。

 レジェンド・オブ・ザ・シーズの成功には、旅行会社も自信を深めているようだ。JTBグローバルマーケティング&トラベル代表取締役社長の深川三郎氏は「1ヶ月で予約が埋まることは可能性を感じさせる」と指摘する。出発地が日本であることは、フライ&クルーズの商品と比べて海外の出港地まで飛行機で移動する時間や費用が不要になり、市場を拡大する上では大きなメリットだ。また、日本船の外航クルーズと比べても価格が低廉化されており、ホテルや旅館の宿泊と比べられる価格帯にまで下がってきている。こうした条件に加え、レイル&クルーズやドライブ&クルーズといったクルーズを中心とする移動機関の組みあわせの選択肢が広がり、市場が活性化される可能性はある。

 2011年に日本に投入される供給量はRCIで5412名、コスタクルーズで5万3760名となり、両社で約6万名にのぼる。現在の市場規模の30%を超える供給が一気に投入されることになるが、日本市場がこれに応えて市場を拡大することができるか。2011年が分水嶺となることは間違いなく、日本のクルーズ市場は30%増とまではいかないまでも、本当の“クルーズ元年”を迎えるか、真価が問われることになりそうだ。


旅行会社の理解が市場の拡大に寄与する

 各クルーズ船社はアジアの成長に期待するなかで、中国市場が絶対数として規模が大きいものの、日本の重要性も理解している。アジアにおける人口に対するクルーズ利用者の「クルーズ浸透率」の低さに着目した議論だ。アメリカの浸透率は別格だが、ヨーロッパは約1%、南米はブラジルを中心に0.2%にまで迫っている。ところが、アジアは浸透率が低いものの、人口の絶対数が他の地域と比べて多い。アジアのなかでも、日本の浸透率は一段と低い数値になっている。(表2)

 こうしたなか、消費者のクルーズに対する認識だけでなく、旅行会社側の売り方にも議論がおよんだ。日本外航客船協会(JOPA)や日本旅行業協会(JATA)などがクルーズアドバイザー認定制度を2003年にスタートさせ、クルーズ販売の知識やスキルを備えた旅行会社のスタッフをクルーズ・コンサルタントとして任命しており、すでに2629名を数える(2010年9月9日現在)。しかし、一定の販売スキルを備える人材が揃ってきつつあるものの、まだクルーズ販売のメリットや体制が整っていないと指摘する声は後を絶たない。

 そのため各クルーズ船社は、それぞれの商品内容や販売概要を旅行会社に理解してもらうオンライン・トレーニングを開設している。たとえば、2011年に32本を福岡発着で設定するコスタクルーズは、日本人の接客担当者のウェイター、ウェイトレス、フロントスタッフ、エンターテイメントスタッフを揃え、日本食、日本語のテレビ番組、船内プログラムやメニュー、エクスカーションの日本語書面で配布する計画で、顧客対応はもちろん、サービス内容までわかりやすく消費者に伝えられるようなトレーニングを組んでいるという。販売サポートも重視し、同サイト上には約40秒の動画も掲載。対面販売で顧客と一緒に映像を見ながら話を進め、販売の糸口をつかんでもらう考えだ。

 一方で、日本の旅行業法とグローバルスタンダードのギャップにより、日本の旅行会社がクルーズを販売する際に過度にリスクを背負うことから、積極的な販売増につながらないと懸念する声もいまだあがる。商慣習の問題は一昼夜では解決しないだろうが、それに固執するよりも、2011年のカジュアルクルーズをいかに定着させ、販売を拡大していくかが喫緊の課題だ。RCIの国際営業部長のラマ・レバプラガダ氏は日本のクルーズ市場を「Sleeping Giant」と表現したが、成長がなければクルーズ船社は日本を素通りし、ひいてはインバウンドのチャンスも危うくなるだろう。