注目の世界遺産暫定リスト(5)アティトラン湖 グアテマラ

  • 2009年2月27日
 アティトラン湖はグアテマラの首都グアテマラ・シティの西約150キロメートル、標高1560メートルの高原にある。火山の噴火によりできたカルデラ湖で、面積は125平方キロメートルと大きくはないが、最深部が320メートルと中米一の深さをもつ。形のよい火山を周囲にはべらせ、鏡のような湖面が空や雲を映す神秘的なこの湖を、19世紀ドイツの探検家アレキサンダー・フォン・フンボルトは「世界で最も美しい湖」と呼んだ。このアティトラン湖は、グアテマラの世界遺産暫定リストに掲載されている18のスポットのうちのひとつだ。

 アティトラン湖の周囲には2つの異なるマヤ方言を話す先住民村が点在しており、美しい湖の景色を眺めつつ、それぞれ異なる村の雰囲気や民族衣装の趣を楽しむことができる。起点となる町はパナハッチェル。湖の北にある小さな町だが、レストランやホテルなど観光客向けの設備が整っている。湖畔にたたずむ村を訪れるには、ここから船やバスに乗ることになる。

 サンティアゴ・アティトランは、パナハッチェルの対岸にあるアティトラン湖畔最大の先住民村。グアテマラ先住民の女性はウイピルと呼ばれる貫頭衣と、コルテと呼ばれる巻きスカートを身に着けており、この村のウイピルは白とえんじ、もしくは青と紫の格子模様で、コルテは赤や紺などのかすり模様。年配の女性には、14メートルから15メートルもの帯を頭に土星の輪のように巻きつけている人もいる。これはシンタと呼ばれる頭飾りだ。この村では毎日のように市が開かれ、特に金曜と日曜の市が活気がある。パナハッチェルから多くの観光客が訪れるため観光地化されてはいるが、船の便も比較的頻繁にあり、気軽に訪れることができる湖畔の村。

 また、パナハッチェルの南約4キロメートルの場所にあるサンタ・カタリーナ・パロポの伝統衣装は、アティトラン湖畔の村のなかでも特に美しい色合いで目を引く。青や緑、紫を基調とし、幾何学的な模様が織り込まれたものだ。パナハッチェルからは乗り合いトラックやミニバスで訪れることができ、所要約20分。

 サンタ・カタリーナ・パロポからさらに4キロメートルほど南へ行くと、アティトラン湖の東に位置するサン・アントニオ・パロポ村がある。水際からの急な傾斜地に民家が固まって建ち、高台にある村の中心部には白亜の教会が印象的だ。この村のウイピルは青または赤、もしくは紫色で、派手さはないものの、糸の色の組み合わせが美しい。10キロも離れていない村でもこれほど民族衣装が違うのを見ると、村固有のデザインの服を着ることが村のメンバーの証であり、誇りでもあるのだと実感できる。

 アティトラン湖を含むグアテマラ南部の観光は、美しい民族衣装を着た先住民族の村の魅力を抜きには語れない。彼らはいまだに古代とほぼ同じ造りの織機を使って、華やかで手の込んだ織物を織る。伝統を守ることにかけては非常に頑固で、スペインによる支配にもかかわらずその技術を親から子へと受け継ぎ、今も民族衣装を日常的に身につけている。アティトラン湖の先住民族村巡りをすると、彼らの頑固さゆえに私たちにすばらしいものを見せてくれることに、感謝にも似た気持ちを覚えるかもしれない。

 アティトラン湖は、グアテマラを含む中米ツアーによく組み込まれている人気の場所。湖畔に点在する村々を手軽に訪れることができる周遊フェリーもあり、主な場所なら1日で見て回ることは可能だ。しかし、個人旅行者は風光明媚でのどかな空気が漂い、物価も安いアティトラン湖周辺に長期滞在する人も多い。朝に夕に表情を変える湖の景色を眺めつつ、スペイン語などを学びながらのんびりと過ごしてみたい場所だ。


▽グアテマラ政府観光局
http://www.visitguatemala.com/


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