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トップインタビュー:ホテルオークラ代表取締役社長 荻田敏宏氏

国際ネットワークの拡大をはかる時期を迎え
メガチェーンとは異なるオークラらしさで成長をめざす


国内での規模拡大がひと段落し、台湾やマカオなどアジアを中心に海外進出を進めているホテルオークラ。この5月に、これまで陣頭を指揮してきた松井幹雄氏が代表取締役会長となり、後任の代表取締役社長に荻田敏宏氏が着任した。国際ホテルチェーンとしての展開について、想定する将来像、国内ホテルとのバランス、営業戦略について聞いた。(聞き手:弊紙編集長 鈴木次郎、構成:梶田啓子)




−就任の記者会見で「国際ホテルチェーン」の展開を強調されていました。この「国際ホテルチェーン」とは、どのようなホテル像を想定していますか

荻田敏宏氏(以下敬称略) ホテルオークラのめざすホテルチェーンは、世界各国に展開するグローバル・メガチェーンホテルではなく、国際的に展開する中規模チェーンホテルだ。現在、海外6軒と国内17軒のホテルを運営しており、新たに台湾に2軒とマカオに1軒を開業することが決まっている。ただし、チェーンの拠点数で見れば国際的とはいえない。日系ホテルとしてネットワークを拡大し、今後10年間で海外20軒から25軒、国内25軒から30軒の合計50軒を展開したいと考えている。

 欧米、アジアともに主要都市のネットワークを固めることをめざし、進出すべき優先度順に「最重要」と「重要」に重点を置いて展開していきたい。最重要拠点はローマ、パリ、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、上海、北京、香港、バンコク、シンガポールなど。次に重要拠点はミラノ、マドリッド、モスクワ、ブリュッセル、サンフランシスコ、ワシントン、大連、天津、蘇州、広州、杭州、クアラルンプール、ホーチミン、ハノイなどを視野に入れている。数を増やせば良いというだけではなく、立地、ホテルオーナーとの契約条件、オークラとしての期待の3つがバランス良く保てることを考慮して決定していく。


−海外で展開していく上で、海外での日本人市場に「日系」をアピールする点は何か

荻田 ハード面では、画一的なスタンダードを各国で展開するというよりも、テーマをモダン、洗練、機能的に統一しつつ、デザイン・コンセプトは各都市の文化と日本の雰囲気を取り入れる。また、オークラの長所である料飲、特にレストランに今後も力を入れていく。和食、洋食、中華は必須だが、場合によっては進出先の料理も検討したい。

 ソフト面では、各ホテルのスタッフに、総合部門は5名ほど、専門部門となるフロントなどを中心に5名ほど、調理部門のスタッフを含めると10名程度を配置したい。マネジメントは徹底した管理方法よりも、各プロパティに独自の裁量を残す運営としたい。


−人材育成の取組みについてはどうか

荻田 グループの本社であるホテルオークラが取り組む人材育成は主にマネジメント育成で、オペレーションはマニュアルと専門員の派遣で対応する。マネジメントは経営を理解している必要がある。例えば主要な利害関係者の考え方、オークラとオーナーの利害についてわかっていなければ話にならない。この点は海外の大手ホテルチェーンと比較するとまだ確立されていないので、強化したい点だ。

 具体的な取組みとして、7月1日に事業管理部に人材開発センターを設立した。これは経営能力を鍛えるためのもので、第1弾は8月下旬に執行役員と総支配人クラスの社員10名から15名を集め、国内のグループホテルで2泊3日の研修を実施する。ここではまず、運営委託契約の精神や内容を本当に理解しているか再確認することから、会計、統計学、財務など座学を中心とした講義が中心だ。業務、売上、費用、品質管理について、効率的な施設ロケーション、人材雇用の将来像など、会社やホテル運営の基本的な考え方に関わるものも含まれる。もちろん、学んだことを広げていかなければならない。特に重要なことは、売上や稼働率など様々な数字を見て、そこから何を創造するのかが大切。創造力は生まれ持った才能ではなく、多くの知識を持ち、それを結びつけ、より良いものを生み出す力だと思う。


−海外ホテルと国内ホテルのバランスについて。売上構成を含め、めざす方向は

荻田 この数年は国内ネットワークの充実に重点を置いて事業展開してきた。拠点のない地方での知名度が低かったからだ。外国人利用者の割合が高いため円高の時期に大きな影響を受け、それまでアメリカに偏重しすぎていたのだと気付かされた。しかし、国内の主要都市でおさえられていないのは名古屋と大阪のみとなり、現在は国際ネットワークを拡大する時期に来ている。海外と国内の拠点数は、5対5からいずれ6対4程度にしたい。

 売上や収入においては、日本は土地代や建設コストなどが高い。また、宿泊よりも、宴会が収入に占める割合が大きい。ただし、宴会でもブライダル部門では人口減少を要因として先細ることは想像に難くないことから、宿泊事業に力を入れる必要があると考えている。そのためには投資環境が修正され、客室単価が上がらなければならない。質の高い客室や設備が多いにもかかわらず、外国人の宿泊利用が少なく、訪日外国人者数が増加しているとはいえ、まだ少ない。さらに、宿泊者のうち外国人客が占める割合が海外では7割から8割であるのに対し、日本は3割程度だ。インバウンドの増加により需要と供給のバランスが改善し、ビジネスとしての魅力も増加する。その点では、アジア発アウトバウンド市場の成長を望みたい。

 海外では宿泊が7割から8割、料飲が2割、宴会が1割程度。会議関連を含めた宴会を伸ばすかどうかについては、コンベンションの実施が国や地方自治体などの需要によるところが大きく、大型インセンティブの追求や受注をホテル側がコントロールできるものでもないため、難しいところだ。ホテル側としては、今後は婚礼ビジネスが先細りしていくと予想されることもあり、当然MICEビジネスには力を入れていきたいと考えている。これまで旅行会社との関係はあまり深かったとはいえないが、我々シティホテルが弱い週末を補うためにも旅行会社と良好な関係を築いていく必要があるだろう。

 利益成長のプランは、現在売上が約580億円で経常利益が約33億円。マネジメントフィーからなる収益は、15億円から20億円ほど。我々は収入よりも利益を見ており、目標はこの2、3年は横ばいで推移し、5年目で経常利益50億円にしたいと考えている。


ありがとうございました。


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※本文中の一部数値と表記が誤っておりました。訂正するとともに、お詫びいたします。(編集部 9月4日0時40分)