法律豆知識(125)、航空券手配に関する最近のトラブル〜二重予約の対応
最近相談を受けた事例の中から、よくあるケースを検討しよう。
<ケース>
Aは、旅行業者B社に対し店頭で、格安航空券の手配を申込んだ。B社は、航空券が取れた旨Aに返事した。
ところが、AはB社の担当者の態度が気に入らず、同じ航空券をC社に申込み、同じく取れた旨の返事を受けた。
数日して、C社は航空会社から同一人物から予約を受けたので、予約を取り消すとの返事を受け、Aに航空券の交付が不可能な旨伝えた。そのため、Aは、割高な航空券を買わざるを得なくなった。
Aとしては、B社に期限までに申込金を支払っていないので手配も取消になっているはずだし、二重に申し込むと駄目になる説明はどこからも受けたことはなく納得できないとし、B社とC社に対し、自己が買わざるをえなかった割高航空券と格安航空券の差額を損害賠償として請求するに至った。
なお、C社は申込金の方法はとらず、航空券と代金を引換する方法であった。
航空会社が、このように二重の予約を嫌う事例は最近よく耳にする。この場合の解決は、意外と難しい。
<B社の責任>
手配契約の成立も、原則は旅行業者が契約の締結を承諾して、所定の申込金を受理した時に成立するのが原則である(手配旅行契約約款7条1項)。
この原則からすると、B社に関しては、Aは必要な申込金を支払っていないし、代金も支払っていないので契約は成立していない。かつ、AがB社に申込をした後それを放置したのであるから、B社には責任はないといえよう。
なお、本件は店頭売買であったが、インターネットを介した「通信契約」の場合、申込金の授受と関係なく、承諾の通知により契約が成立するので注意を要する(同7条2項)。この場合は、次のC社と同じ立場になってしまうのだ。
<C社の責任>
航空券の販売方法として、申込金方式をとらず、代金と航空券の引換という方法をとると、口頭の申込に対しても、旅行業者が承諾すると契約は成立してしまう(同9条)。従って、C社とAとの間は、手配契約が成立している。
つまり、C社は格安航空券を交付する義務を要するはず。しかし、本件はAが二重に手配したという原因で交付ができなかった。そのため、C社には違法性はなく、契約違反を問われることは無いと言えそうだ。
だが、本件は、さらに厄介な問題がある。二重に申し込むと航空会社が発券を拒否するという事実を一般の顧客は知らない。こうした実情を踏まえると、旅行業者側にこの点に関する説明義務がある、という疑問が残るからである。
<説明責任はあるか>
この問題点は、かなり難問である。私自身は、二重に申し込んで放置するということは、一般の社会通念からしても是認されるべき態度でなく、このような顧客を保護する必要はないので、C社に説明責任までは無いと考えるが、反対説も当然予想される。
無用なトラブルの防止という予防法学的には、何らかのかたちで、二重に申し込むと、予約を取り消されることがあり得ると周知することは、事後にどのような対処となるにせよ、旅行会社の責任の所在を明確にすることになるだろう。
=====< 法律豆知識 バックナンバー>=====
第124回 旅行業者のリスク管理(4)−バス事故の判例から
第123回 旅行業者のリスク管理(3)−カラコルムハイウエー判決文から
第122回 旅行業者のリスク管理−免責の線引きとは(その2)
第121回 旅行業者のリスク管理(その1)
第120回 航空会社に預けた受託手荷物の紛失(その3)
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※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travelvision.co.jp
執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/
<ケース>
Aは、旅行業者B社に対し店頭で、格安航空券の手配を申込んだ。B社は、航空券が取れた旨Aに返事した。
ところが、AはB社の担当者の態度が気に入らず、同じ航空券をC社に申込み、同じく取れた旨の返事を受けた。
数日して、C社は航空会社から同一人物から予約を受けたので、予約を取り消すとの返事を受け、Aに航空券の交付が不可能な旨伝えた。そのため、Aは、割高な航空券を買わざるを得なくなった。
Aとしては、B社に期限までに申込金を支払っていないので手配も取消になっているはずだし、二重に申し込むと駄目になる説明はどこからも受けたことはなく納得できないとし、B社とC社に対し、自己が買わざるをえなかった割高航空券と格安航空券の差額を損害賠償として請求するに至った。
なお、C社は申込金の方法はとらず、航空券と代金を引換する方法であった。
航空会社が、このように二重の予約を嫌う事例は最近よく耳にする。この場合の解決は、意外と難しい。
<B社の責任>
手配契約の成立も、原則は旅行業者が契約の締結を承諾して、所定の申込金を受理した時に成立するのが原則である(手配旅行契約約款7条1項)。
この原則からすると、B社に関しては、Aは必要な申込金を支払っていないし、代金も支払っていないので契約は成立していない。かつ、AがB社に申込をした後それを放置したのであるから、B社には責任はないといえよう。
なお、本件は店頭売買であったが、インターネットを介した「通信契約」の場合、申込金の授受と関係なく、承諾の通知により契約が成立するので注意を要する(同7条2項)。この場合は、次のC社と同じ立場になってしまうのだ。
<C社の責任>
航空券の販売方法として、申込金方式をとらず、代金と航空券の引換という方法をとると、口頭の申込に対しても、旅行業者が承諾すると契約は成立してしまう(同9条)。従って、C社とAとの間は、手配契約が成立している。
つまり、C社は格安航空券を交付する義務を要するはず。しかし、本件はAが二重に手配したという原因で交付ができなかった。そのため、C社には違法性はなく、契約違反を問われることは無いと言えそうだ。
だが、本件は、さらに厄介な問題がある。二重に申し込むと航空会社が発券を拒否するという事実を一般の顧客は知らない。こうした実情を踏まえると、旅行業者側にこの点に関する説明義務がある、という疑問が残るからである。
<説明責任はあるか>
この問題点は、かなり難問である。私自身は、二重に申し込んで放置するということは、一般の社会通念からしても是認されるべき態度でなく、このような顧客を保護する必要はないので、C社に説明責任までは無いと考えるが、反対説も当然予想される。
無用なトラブルの防止という予防法学的には、何らかのかたちで、二重に申し込むと、予約を取り消されることがあり得ると周知することは、事後にどのような対処となるにせよ、旅行会社の責任の所在を明確にすることになるだろう。
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第124回 旅行業者のリスク管理(4)−バス事故の判例から
第123回 旅行業者のリスク管理(3)−カラコルムハイウエー判決文から
第122回 旅行業者のリスク管理−免責の線引きとは(その2)
第121回 旅行業者のリスク管理(その1)
第120回 航空会社に預けた受託手荷物の紛失(その3)
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