「点をつないで線と面に」観光庁が示す次の一手、資源のストーリー化と消費設計が鍵【対談】
観光庁観光地域振興部観光資源課長の矢吹周平氏と、内閣府地域活性化伝道師で跡見学園女子大学准教授の篠原靖氏が対談し、2026年度の観光施策と地域観光の方向性について議論した。訪日需要の拡大が続く一方で、地方分散や観光消費額の伸び悩みといった課題も顕在化する中、観光政策は新たな段階に入っている。対談では、地方分散や観光消費拡大に向けた「体験設計」や「資源のストーリー化」、さらに観光を起点とした地域産業の循環構築など、現場に直結する実務的な論点が示された。
篠原靖氏(以下敬称略) 2026年度を迎えるが、日本の観光は大きな転換期にある。訪日客数は4000万人を超え、消費額も10兆円規模に迫る中で、これまでの「数」を追う観光から、質を問う段階に入っている。特に地方への分散や消費額の拡大が課題として顕在化しているが、この現状をどのように見ているか。
矢吹周平氏(以下敬称略) 観光は国の成長産業として確実に位置付けられている。一方で、数の達成だけでは十分ではなく、その効果がどれだけ地域に波及しているかが重要になっており、地域に人が訪れ、消費が生まれ、経済が循環していく。その構造をどう作るかが、これからの観光政策の中心になる。
篠原 現場を見ていると、地域には資源も熱意もあるが、それが十分に経済に結びついていないケースが多い。観光は本来、交流人口を通じて雇用や地域活性化につながるはずだが、その設計が弱い印象もある。一方で、外から評価されることで地域の誇りが高まるという側面も大きい。
矢吹 その点は強く感じている。地域の方々は自分たちの資源に誇りを持っており、それを伝えたいという思いも強い。観光は経済的な効果だけでなく、そうした地域の価値を再認識する機会にもなる。結果としてシビックプライドの醸成や、次世代への継承にもつながっていく。
篠原 ただし消費という観点では、まだ改善の余地が大きい。例えば土産物一つとっても、団体旅行時代の設計のままになっているケースも多い。今の個人旅行者のニーズに合った商品設計ができているかというと疑問も残る。この点はどう考えるか。
矢吹 まさに細部の積み重ねが重要になる。商品のサイズやパッケージを工夫するだけでも購買行動は変わる。こうした一つ一つの改善が最終的な消費額に直結する。大きな施策と同時に、現場での細かな工夫を積み上げていくことが不可欠だ。
篠原 観光の形も大きく変わっている。従来の周遊型から、「体験」「滞在」「交流」へとシフトしている。単に訪れるだけでなく、地域との関係性をどう深めるかが重要になっている。この変化はどのように捉えているか。
矢吹 体験や交流が増えることで滞在時間が延び、宿泊や飲食、購買へとつながる。さらに、農業や漁業、加工業などとも結びつくことで、地域全体の経済循環が生まれる。観光を起点に、さまざまな産業をつないでいくことが重要になる。
篠原 つまり観光は単体ではなく、地域産業を束ねるハブとして機能させる必要がある。そのためには観光資源の捉え方も変えなければならない。各地域に資源はあるが、それが価値として伝わっていないケースも多い。
矢吹 日本の強みは多様性にあると思っている。四季、自然、文化、食など、多様な資源が存在している。それらを個別に見せるのではなく、どう組み合わせて価値として提示するかが重要だ。
篠原 資源は点では意味を持たない。例えば同じような自然でも、なぜその場所に行くのかという理由を示さなければ選ばれない。点をつなぎ、価値として提示する必要があると。
矢吹 その通りで、点を線に、線を面にしていく、つまりストーリーとしてつなげることが重要になる。それによって初めて観光商品として成立する。
篠原 その考え方を整理すると、「今だけ・ここだけ・あなただけ」に集約される。時間的価値、地域固有性、そして特別性。この3つが揃って初めて選ばれる理由になる。
矢吹 地方誘客においては特に重要な視点だ。その地域ならではの価値を明確に打ち出すことが求められる。


