北米新興OTA Hopperの日本進出の可能性と影響

■OTAへの過度な依存の脱却のために

 コロナ禍を契機とした人手不足やインフレによる各種コスト高が深刻な経営課題となっている現状では、宿泊事業者のコスト削減には限界がある。そのため、サービスの付加価値を高めるマーケティングに注力し、OTAへの過度な集客依存の脱却を図り、売上および利益を拡大させる戦略が求めれる。

 サービスの付加価値を高めるためには、まずは既存顧客の分析が出発点となる。顧客の属性や宿泊動機など多角的な視点からセグメンテーションを行い、ターゲット顧客の特定を行う。その後、ターゲット顧客に合わせたサービスの差別化を図り、独自のポジショニングを確立させることが求められる。

 サービスの差別化においては宿泊サービスだけにとどまらず、その土地ならではの食、文化、歴史、芸能など地域の魅力を演出することも要素とり、具体的な戦略として、外食、交通、芸能等における地場の事業者やアクティビティプラットフォーマーとの連携も考えられる。

 星野リゾートの場合、各施設単位での取り組みを分析した上で、「スモールマスマーケティング施策」として、全社的なマーケティング戦略に昇華し、サービスの差別化を図っている。加えて、コロナ禍においてマイクロツーリズムという新しい旅行形態を提唱し、限られた宿泊需要の取り込みに注力してきた。

 星野リゾートによれば、宿泊予約の50%超が自社サイトからの直接予約であることから、星野リゾートは独自のマーケティングが奏功し、サービスの付加価値を顧客へ直接的に訴求しブランドを確立できていると推察される。

星野リゾートのセグメンテーションおよび提供価値
(出所)星野リゾート公表資料より、みずほ銀行産業調査部作成

 コロナ禍前以上に拡大が予想される訪日外国人旅行者数を背景に、米Marriott等メガホテルオペレーターの積極開業をはじめ、タイCentralやシンガポールCapellaといったアジアのラグジュアリーホテルオペレーターによる日本初進出の計画も発表されている。多様なサービスを展開するホテルオペレーターの進出によって、サービスの差別化がより一層難しくなることから、宿泊事業者の競争環境はこれまで以上に激化することが想定されるが、宿泊事業者がサービスの付加価値向上を軸としたマーケティング全体の見直しによって競争力を高めるとともに、宿泊産業が労働生産性を高め、稼げる魅力的な産業に転換していくことを期待したい。