【弁護士に聞く】販売手数料の計算基礎を全国旅行支援の割引後の旅行代金に置くのは不当ではないのか?

  • 2022年12月22日

全国旅行という表現はNG

 この問題は、専ら契約書にある「旅行代金」とは何かということに帰着する。なぜなら、契約調印前には全国旅行支援なる企画が実施されることなど予想もされていなかったから、契約書にある「旅行代金」とは形式的に意味を理解すれば良いからである。

 そこで、次に問題とすべきは全国旅行支援の法的構造である。質問者も言うように、旅行業者は全国旅行支援を全国旅行割と表現する場合があるが、これが大間違いの元である。全国旅行支援は「支援」であって「割引」ではないからである。割引というと、旅行業者が旅行代金を割引き、その割引分を全国旅行支援から補填してもらっていると見ていることになるが、それでは旅行の支援ではなく、旅行業者に対する支援になってしまう。全国旅行支援は国民の旅行への支援であることから、消費者の旅行代金支払債務の一部を全国の地方自治体が一定の条件の下で立替払いすることを約束しているのである。

 そのため、自治体によっては「割引」という表現は消費者に制度趣旨を誤認させかねないとして使用しないように呼び掛けているところもあるようだ。

 こうした全国旅行支援の制度趣旨からすれば、旅行代金の表示は、質問者の例でいえば、

旅行代金10万円
全国旅行支援額4万円
旅行者の実質負担額6万円

といった表示にするのが望ましいと言えよう。

 したがって、販売手数料の計算基礎とすべき旅行代金とは当初の旅行代金であることは明白である。因みに、消費者が支払うべき取消料の計算基礎も同様である。


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三浦雅生 弁護士
75年司法試験合格。76年明治大学法学部卒業。78年東京弁護士会に弁護士登録。91年に社団法人日本旅行業協会(JATA)「90年代の旅行業法制を考える会」、92年に運輸省「旅行業務適正化対策研究会」、93年に運輸省「旅行業問題研究会」、02年に国土交通省「旅行業法等検討懇談会」の各委員を歴任。15年2月観光庁「OTAガイドライン策定検討委員会」委員、同年11月国土交通省・厚生労働省「「民泊サービス」のあり方に関する検討会」委員、16年1月国土交通省「軽井沢バス事故対策検討委員会」委員、同年10月観光庁「新たな時代の旅行業法制に関する検討会」委員、17年6月新宿区民泊問題対策検討会議副議長、世田谷区民泊検討委員会委員長に各就任。