伊豆・下田、観光列車とロープウェイで新たな魅力を知る

「ななつ星」のデザイナー水戸岡鋭治氏による豪華列車
地産の食材を堪能

 江戸時代には東西を往復する船の寄港地として栄え、1853年の黒船来航後には日米和親条約で最初に開港された場所でもある伊豆・下田。透き通った海と白い砂浜、変化に富んだ火山地形、そして湯量豊富な温泉と、都心から近いリゾートとして親しまれてきた。しかし近年は国内外の観光地との競合もあり、観光交流客数はピーク時の半数以下の290万人程度にまで減少、そこにコロナ禍が更なる追い打ちをかけている。アフターコロナに向け地域の知られざる魅力の発信を試みる下田交通ツーリズム活性化委員会が企画した2泊3日のモニターツアーに同行し、下田の新たな観光素材を取材した。

THE ROYAL EXPRESS

 ツアー参加にあたっては、1週間前からの検温と事前のPCR検査での陰性が条件とされた。目玉となる観光列車「THE ROYAL EXPRESS」は、通常は横浜-伊豆急下田間を日中に運行しているが、今回は夜間の貸切。下田駅改札からホームに入ると、オリエント急行を彷彿とさせる厳かに煌めく碧い車体が目を引いた。

夜のホームに煌めくTHE ROYAL EXPRESS

 車両デザインは、「世界一の豪華列車」と呼ばれる「ななつ星in九州」をはじめ、数々の観光列車を手掛ける水戸岡鋭治氏。こだわりと贅を尽くした内装は1号車から8号車まですべての車両でデザインが異なり、それぞれの天井を眺めるだけでも圧巻だ。

匠の技が光る大川組子の繊細な木枠

 1号車には子ども向けに木製のボールプールが設置されている。4号車はキッチンカー、8号車はライブラリーになっている。

 3号車は正月には駿河下駄や寄木細工、2月、3月には吊るし雛など、季節ごとに展示が変わるマルチカーで、列車好きカップルがここで結婚式を挙げたこともあるという。記者が乗車した際はクリスマスマーケットになっており、乗務していた女性クルーが自ら買い付けたという商品も並んでいた。

クリスマスマーケットが開催されていた3号車

金属の精密なデザインを可能にする「電鋳」技術を用いた豪華なトイレも必見

 ディナーは本ツアーの特別企画として、ザ・キャピトルホテル 東急や伊豆今井浜 東急ホテルの総料理長も務めた加藤完十郎シェフが監修。富士山サーモンに土肥産ハーブ鶏、伊豆牛、下田の伊勢海老、南伊豆の安納芋など、地産の素材を追求したメニューが提供された。パンに添えられたオリーブオイルも第6次産業として7年前から伊豆高原で育て始めたオリーブから作られているという。

 乗車中に話を聞いたクルーの誰もが、車内のしつらえや職人技の秘話、地元との関わりや料理の説明などを丁寧に教えてくれた。後にツアーの企画から販売、ガイド、料理やドリンクのサービスまで、1人のクルーが何役もこなしていると知り、なるほどと頷いた。THE ROYAL EXPRESSの立ち上げメンバーであり、生演奏を楽しませてくれた音旅演出家・バイオリニストの大迫淳英氏までもがクルー同様の説明をしてくれたのには驚いたが、関わる人々の仕事に対する強い思い入れが、高いリピート率に繋がっているのだろう。

音旅演出家・バイオリニストの大迫淳英氏

 THE ROYAL EXPRESSでは、1泊2日の「クルーズプラン」と「食事付き乗車プラン」の2種類のプランを展開しており、一部車両、または全車両チャーター利用でツアーを造成することができる。

今回は雨で見ることは叶わなかったが、月光が海面に作り出す「ムーンロード」の鑑賞も、THE ROYAL EXPRESS の旅のメインイベントの1つだ(画像提供:伊豆急ホールディングス)

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