現地レポート:スロベニア、中欧旅行のバラエティ拡充へ

  • 2010年6月24日
注目高まるデスティネーション、スロベニア
滞在日数延ばし、中欧旅行のバラエティ拡充へ


 中欧の国スロベニア。1991年に旧ユーゴスラビアからの独立を果たし、2004年にはEUに加盟した。経済的にも政治的にも安定し、加えて豊富な観光資源があることから、新しいデスティネーションとして注目を浴びている。日本国内での知名度は、正直なところまだまだ低いが、実際に訪れてみると、デスティネーションとしての将来性を確信せずにはいられない多様な魅力にあふれていた。
               
             

湖面に緑が映えるブレッド湖

 スロベニアは四国ほどの国土に、200万の人口を有する小さな国だ。しかし、首都リュブリャナを起点に、北はアルプス、南西はアドリア海に面し、東には温泉やワイナリー、保養施設が点在するなど、多様な魅力が存在する。また、「ヨーロッパの交差点」とも呼ばれるように、ヨーロッパのどの国からも陸路や空路などでアクセスしやすい地理にあり、観光ルートをつくる上で自由度が高く、大きなメリットになるだろう。ちなみに、今回はヘルシンキ経由という空路で入った。

 最初に訪れた観光地は、アルプス近くのブレッド。リュブリャナからは1時間強の距離にあり、氷河が造りあげたブレッド湖で有名だ。温暖な気候から避暑地として栄え、古くはヨーロッパ中の貴族が、旧ユーゴスラビア時代にも当時のチトー大統領が利用していた。今では世界各地から観光客が訪れており、そのなかには日本人も含まれる。湖には小さな島があり、島には鳴らすと願いが叶うといわれる鐘を持つ聖マリア教会がある。ここを訪れるには地元の手こぎの小舟を使うことが定められているが、それが旅情を盛り上げてもいる。また、湖を見下ろす頂にはブレッド城があり、風光明媚な光景を楽しめる。


地下に広がる神秘の世界、シュコツィアン洞窟群

 すでに日本人観光客が訪れているスポットには、南部のクラス地方の鍾乳洞群もあげられる。このクラス地方は、石灰岩が浸食してできた地形を指す「カルスト」の語源となった場所で、大規模な鍾乳洞がそこここに点在する。なかでも有名なのが、スロベニアで唯一世界遺産に指定されているシュコツィアン洞窟群だ。2キロメートルほどのコースを約1時間30分かけて徒歩見学する、ガイド付きツアーに参加してみた。

 スタート後、しばらくはオーソドックスな鍾乳洞の風景が広がるが、洞窟内を流れるレカ川を目にする後半部分は驚愕のひと言。ぽっかりと開いた巨大な空間に川の流れる音が怒濤のごとく響き渡り、水しぶきが霧のように舞い上がっている。川は歩道から140メートルも下を流れているのに、だ。世界遺産に指定されたことが納得できる、荘厳な景観美だ。

 スロベニアにはもうひとつ有名な鍾乳洞がある。東寄りに位置するポストイナ鍾乳洞だ。大きさはシュコツィアン洞窟群を上回り、世界最大級といわれている。鍾乳洞はトロッコに乗って見学するため、日本人観光客はこちらの方が多いようだ。

 シュコツィアン洞窟群の近くにはリピツァという街がある。ここはかつてハプスブルグ家が愛用した名馬リピツァーナ種誕生の地で、従順な性格と高い運動神経を持ち、今でも乗馬の世界では第一級の名声を得ているという。リピツァーナ種の馬を飼育する牧場は、乗馬スクールのある観光レクリエーションセンターとしても人気があり、歴史ある馬術ショーの見学も可能だ。


中世の面影に出会える、アドリア海の街ピラン

 スロベニアはアドリア海沿いに46.6キロメートルの海岸線を持つ。この海に近いエリアを訪れる日本人観光客はまだ少ないが、魅力的な素材を見つけることができる。一番の素材は中世の面影を残す、古い漁師町ピランだ。街全体がスロベニアの歴史文化遺産として保存されており、丘の上へ向かって街並みを形成する地中海独特の雰囲気が見受けられる。丘の上にある聖ユーリ教会から見下ろす街の眺めは、とても美しい。また、狭い路地裏を散策しつつ、疲れたら海沿いのカフェでのんびりと過ごすというのも気持ちの良い時間の過ごし方といえるだろう。ちなみに、ピラン出身の著名人に「悪魔のトリル」で知られる18世紀の作曲家ジュゼッペ・タルティーニがおり、街の中央の広場は彼の名前が付けられている。

 クロアチアとの国境沿いに広がるセチョヴィリェ・サリナ自然公園も、スロベニアの地中海地方を代表する魅力的な場所だ。ここはラムサール条約を批准した湿地で、野生の鳥類の宝庫となっているが、同時に塩田でもある。太陽と風と人の手だけで製塩をしており、700年以上の歴史を持つ伝統的な製法を頑なに守っているという。塩の結晶はピラミッドのような形でミネラル分が多いせいか、舐めてもまろやかで風味があり、美味い。土産にも手頃だ。


快適な旅が楽しめる充実したインフラ

 今回はスロベニアの主だったスポットを足早に見てきたが、日本を発つ前にイメージしてきたことがすべて裏切られる結果となった。もちろん、良い方向にである。旧ユーゴスラビアに属していた国で独立から20年も経っていないと聞くと、宿泊施設や観光施設、高速道路などのインフラ整備は進んでおらず、英語も通じずに苦労するのではないかと思っていたのだ。ところが、実際はまったく逆。ホテルはどこも快適で、シャワーや空調に困ったこともない。食事は重くはなく、素材をいかした味付けは日本人にもあうと感じた。首都リュブリャナをはじめ、街は整然と美しく保たれており、人々は親切で、安全面も日本並みのように感じた。

 ここ2、3年は日本人観光客が増加しており、2009年度の日本人渡航者数は前年比21%増の4万7129名となった。宿泊数も6万2144泊(同14%増)を記録するなど、好調な伸びを示している。現状では単独のデスティネーションとして商品を造成するのは時期尚早かもしれないが、スロベニアでの滞在日数を1泊伸ばした行程でツアーを組み立てることは可能だろう。例えば、アドリア海の港町を案内したり、東部のパンノニア地方の温泉保養施設を訪れたりする行程を組み入れると、新しいデスティネーションを探し求めている旅行者の期待に応えられるはずだ。





取材協力:スロベニア観光局
取材:竹井智