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「今こそ自社の強みに投資を」
エクスペディアホールディングス代表取締役 マイケル・ダイクス氏-新春インタビュー

将来の差別化につながる投資を惜しまず
Go To トラベルへの評価も

-直販を進めている宿泊施設や航空会社との関係についてどのようにお考えでしょうか

ダイクス 直販は新しい動きではない。海外では「OTA対直販」の対立構図があったが、日本ではそういったことを感じたことはない。宿泊施設や航空会社の方と話していても、直販で賄えない部分はOTAの力を借りるというより健全な協力体制があり、あまり議論は発生していない。

 ただ敢えて言うならば、サプライヤーが我々を利用する価値は4点ある。まずは看板効果。直販であったとしても新規顧客獲得には投資し続ける必要があり、その一部をOTAが担う。OTAからお客様が直販に流入したとしても、一度は当社のサイトに来ているということがサプライヤーにとっての価値になる。

 二つ目に言えるのは、我々には他社の販売を支えている仕組みがあることだ。世界で見ると、当社の技術を使ってホワイトレーベルで販売しているケースもあり、当社は技術で直販を後押ししていると言える。それも業界全体が伸びる要素となり、最終的にはパイが大きくなって当社の販売にも還元されることになる。

 三つ目は、直販よりも当社が送客するお客様の方が「価値が高い」という点だ。OTA経由での送客における平均連泊数は5泊なのに対し、直販は4泊。そこだけでも20%アップの価値があるが、さらに消費額も16%ほど高いという調査結果がある。直販を選ぶ客層はより価格にセンシティブになっている可能性があり、その分単価が下がったり連泊が少なくなるケースもあるため、より価値の高い送客もOTA経由では期待できると考えている。

 最後はレベニューマネジメントツールなど、付加価値のサービスをパートナー宿泊施設に無料提供している点。中小の宿泊施設ではこのようなツールを導入しておらず、周囲を見ながら価格設定しているような場合も多いが、当社のツールを使えば自身で将来需要を確認し、収益改善につなげることもできる。

-コロナ前と現在では、お客様の検索・予約に変化は出ていますでしょうか

エクスペディアグループでは宿泊施設より提供された安全衛生対策の情報が掲載されている(クリックで拡大) ダイクス まず施設を選ぶ際に価格ではなく衛生管理が重視されるようになった。

 また予約に対して柔軟性を求めるようになったことも特徴的な点だ。世界の旅行者の50%が「変更可、返金可」のプランを優先的に選ぶようになった。コロナ前は価格優先で、宿泊施設にも返金不可プランを作ることを勧めていたが、真逆になった。今は70%のプランが返金可能に変わっている。

 日本国内ではPCからモバイルへのシフトが加速しており、旅行のプランニングの75%、予約の65%がモバイル経由でおこなわれている。加えてリードタイムが0日から6日と短く、直近で宿泊したいという需要が高まっているのもこれまでとは異なる動きだ。

-Go Toトラベルキャンペーンについては賛否がありますが、開始から現在までどのように評価されますか

ダイクス 賛否がある政策であることは間違いない。ただし、旅行業は日本のGDPの中で7%のシェアがあり、国内消費の額としては特に大きく、かつ地方へのインパクトも大きいことを考えると、この産業をそのまま見殺しにするわけにはいかない。そういった産業に対して対策を取ったという意味では評価しなければならないと思うし、旅行業の一員としても非常に感謝している。

 とはいえ業界としては、初期段階ではルールがなかなか決まらなかったり、突然変更されたりと、フラストレーションも多かったと思う。当社でもフルタイムで対応に追われるスタッフがいて、その人たちの痛みも認めたい。ただ、日本はどちらかというと石橋を叩いて渡る文化で、これは美徳のひとつではあるが敏捷性に欠けるという事実もある。違う観点から考えると、今回は敏捷性高く対策を打ち出したという見方もあるのではないか。今は企業にも国にも敏捷性が求められる世の中だ。そういう意味ではいい事例になるのではないかと信じたい。ここからしっかりと失敗からも成功からも学習して、次回もっと良くしていけばいい。

ありがとうございました