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「今こそ自社の強みに投資を」
エクスペディアホールディングス代表取締役 マイケル・ダイクス氏-新春インタビュー

将来の差別化につながる投資を惜しまず
Go To トラベルへの評価も

-新型コロナウイルス収束後の需要想定に関してお聞かせください。国内・海外・訪日ではどの順に旅行需要が回復すると想定されていますか

ダイクス氏 ダイクス氏 まず回復するのは国内の安全と思われている地域への旅行。事実、新型コロナウイルスが発生した当初は沖縄や札幌など、遠方で自然豊かな場所から戻り、そこからGo Toトラベルでも見られるように全国へ対象が広がった。

 次はインバウンド。幸い日本は比較的安心できる旅行先と見なされており、いち早く需要は高まると思う。東南アジア、欧米、オーストラリアなど12か国の旅行者を対象にした調査では、82%が日本を行きたい国ナンバーワンに選んだ。日本のデスティネーションとしての魅力はまったく衰えていない。

 最後がアウトバウンドとインバウンド全般になるだろう。新型コロナウイルス収束後に海外に行きたいかという調査では、中国や東南アジア諸国では極めて旅行への意欲が高いのに対し、日本人で行きたいと答えた人は半分弱で、かつ台湾やハワイなど近隣へという回答が目立った。やはり日本人は慎重なので、アウトバウンドに関しては暫く尾を引くのではないか。

-2021年の出入国者数はどの程度になると思われますか

ダイクス アウトバウンドに関しては2019年の2割の400万人ほどになってもおかしくはないだろう。今後、2019年と同レベルになるのは難しいと思う。人口減に加え、若者の旅行意欲の低さもある。経済的な事情があったり、別の優先事項があったりというのが理由だが、業界としてデジタルネイティブな世代への需要喚起をしっかりとおこなっていく必要があるだろう。

 インバウンドに関しては、2019年の3000万人の5割から6割くらいまで戻る可能性はあると楽観的に見ている。

-需要が蒸発するような状況は一定周期で出現すると想定せざるを得ないと思います。今後事業ポートフォリオをどのように組み立てていかれるのかお聞かせください

ダイクス 今回の新型コロナウイルスは特別大きいとはいえ、急激な需要変動は業界にはつきものだ。一方、需要は不安定ではあるが、すぐに戻るものでもある点は忘れずにいたい。これからも旅行業に携わり、業界を支えていきたいという姿勢に変わりはない。

 当社はOTAなので、まず技術革新には絶えず投資を続ける。キーワードは自動化と円滑化だ。自動化はコストダウンや事業の拡張につながる。円滑化はスムーズな旅行の妨げになるあらゆるものを見直すという考えだ。例えば現在の決済方法が本当にユーザーフレンドリーなのかなど。通常であれば他のビジネスに押されて後回しにしていた部分にも、今だからこそ時間をかけて取り組むことができる。

 あと忘れてはならないのはパートナー宿泊施設との接点だ。当社はマーケットマネジメントの組織であり、データに基づく提案力を鍛えるなど社員のスキルアップはこれまでも続けてきたが、現在は割引による目先の利益よりも、サプライヤーをより長期的にサポートすることを目指し、膝を突き合わせどうやってリカバリーしていくかという会話にフォーカスしていくようチームに伝えている。そういった点もいずれ差別化要因になると考えている。

-GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)の旅行マーケット進出について伺います。これらの企業は旅行マーケットのゲームチェンジャーになると思われますか

ダイクス IT業界の大手プレーヤーは絶対に過小評価してはいけない。全ての業界を再構築するような力を持つ企業ばかりだ。とはいえ過剰に恐がる必要もないと思う。警戒はしつつ、対策を打ちながら進めるしかない。明確に自分たちを差別化できる点に投資し続けることがポイントになるだろう。

 ここで挙げるとすると3点あり、一つ目はデータだ。汎用的なデータでは敵わないが、我々には旅マエのプランニングから旅ナカのサポート体制、旅アトの評価と共有の仕組みまで、旅行の全プロセスに特化したデータを過去20年以上遡って持っているという強みがある。

 二つ目はサプライヤーと接点を持てる体制を維持している点だ。旅行業界はウェットな人間同士の付き合いの深い業界であり、これも簡単に作り上げられるものではない。

 三つ目はロイヤリティプログラム。ポイントやステータスは旅行の一部になっている。当社でもそういった仕組みを持っており、旅行会社とのコネクションもあるようなポイントプログラムも多いため、一朝一夕で再現できるものではない。

 明日すぐに脅威になるわけではないが常にウォッチして、差別化要因をしっかりと作っているかどうかがすべてだと思う。