観光と文化の共存が重要、持続可能な観光産業へ-ツーリズムEXPOより

  • 2015年10月15日

観光と文化のバランス重視、平和への貢献を
文化の維持、創出で観光振興へ

基調講演の様子  このほど開催された「ツーリズムEXPOジャパン2015」の国際観光フォーラムでは、「Tourism and Culture 旅と文化」をテーマに基調講演とシンポジウムがおこなわれた。基調講演では、世界観光倫理委員会議長で世界貿易機構(WTO)元事務局長のパスカル・ラミー氏が登壇し、旅と文化の関係について語った。シンポジウムでは基調講演を踏まえ、「文化の保存と活用、そして観光の役割とは?」をテーマに、4名のパネリストがディスカッションをおこなった。

パネリスト
世界観光倫理委員会議長、世界貿易機構(WTO)元事務局長 パスカル・ラミー氏
京都市長 門川大作氏
シャネル代表取締役社長 リシャール・コラス氏
国連世界観光機関(UNWTO)アジア太平洋地域部長 スー・ジン氏

モデレーター
首都大学東京特任教授、東京工業大学特任教授、観光庁参与 本保芳明氏


観光振興と文化保護のバランスが重要
文化ツーリズムは平和への架け橋

世界観光倫理委員会議長、世界貿易機構(WTO)元事務局長のパスカル・ラミー氏  基調講演では、世界観光倫理委員会議長のパスカル・ラミー氏が登壇し、観光について「単に日常を離れて癒しをもたらすだけでなく、(文化体験を通し)さまざまな感動や知識、知恵を提供できる」と説明した。同氏によると、観光における遺跡、絵画、食などの文化体験の占める割合は高く、観光と文化は互いをサポートしあう関係にあるという。

 加えて、ラミー氏は観光と文化は経済やグローバル化においても重要な位置づけにあるとの考えを示した。経済的な側面については、「人々が旅をする理由のうち、約4割が文化的な観光資源を目的としている」と現状を説明。「文化はこれまで以上に観光における価値の提供の大きな部分を占めるようになってきている」との考えを述べるとともに、官民協働による文化をフックにした観光の推進を提案した。

 一方、文化を観光資源として観光客に訴求することはリスクを伴うケースもある。ラミー氏は、文化遺産を観光地化したことで多くの人が訪れ、交通渋滞が発生するケースを挙げ「文化を消費しすぎると、地元のコミュニティに損傷を与えることに繋がる」点を指摘。文化の保護と観光プロモーションのバランスを保つことが重要であると語った。同氏は成功例として、壁画保護のためオリジナルの洞窟を閉鎖し、洞窟のレプリカを建造して観光客を呼び込んでいるフランスのラスコーの洞窟などを列挙。官民協働のもと、地元のコミュニティや観光客も巻き込みながら、持続可能な文化ツーリズムの枠組みを構築していく必要性を説いた。

 また、グローバル化に観光や文化がもたらす効果としては、旅をきっかけに互いの文化を理解することが平和につながる旨を語り、観光と文化の持つ倫理的側面について述べた。同氏は「技術の革新や経済のグローバル化などで地球が急速に小さくなる一方で、さまざまな民族のアイデンティティは強化されており、他者の排斥に繋がる」と危機感を示した。その一方で、アイデンティテは伝統や宗教などの文化によって形成されていることから「相手の価値観を理解するという意味で文化ツーリズムは大きなポテンシャルがあり、人々に大きなインパクトをもたらす」と意義を強調。「文化ツーリズムは平和と調和の実現に役立てることができる」と話した。