日本郵船、クリスタル・クルーズを売却-今後は飛鳥に専念

  • 2015年3月4日

クリスタル・セレニティ 日本郵船は3月3日、米国市場でクルーズ事業を展開している完全子会社のクリスタル・クルーズ社を、スタークルーズなどのクルーズ事業をおこなうゲンティン香港に売却することを決定した。客船事業の見直しを目的としたもので、今後はクルーズ事業を飛鳥IIのみにしぼり込み、経営資源を投入。同船の船齢が25年近いことなどを考慮し、新造船に向けた準備などを進める。

 譲渡の時期は今年の4月から6月までを予定。譲渡価格は企業価値の5億5000万米ドルを基に算定し、これに伴い日本郵船は2016年3月期の第1四半期決算で特別利益として約261億円を計上するという。

日本郵船取締役・常務経営委員の左光真啓氏 4日に開いた記者会見で、今回の売却について説明した同社取締役・常務経営委員の左光真啓氏によれば、売却先のゲンティン香港には、ここ1年ほどの間に売却先を探していた日本郵船の側から接近。クリスタル・クルーズ社はリーマンショック後に収益性が落ち込んでいたものの、2013年以降は黒字に転換し、「ゲンティン香港には将来性を評価された」という。なお、左光氏によればクリスタル・クルーズ社の業績は2014年以降も好調で、「2015年や2016年には史上最高益を上げられるのでは」という。

 クリスタル・クルーズ社は1988年に、日本郵船が100%出資するクルーズ会社として米国で設立。主なターゲットは富裕層で、現在は定員922名のクリスタル・シンフォニーと、1070名のクリスタル・セレニティの2隻を運航している。資本金は2億6000万米ドルで、従業員は約200名。利用者は約85%が米国またはカナダからで、残りも英国やオーストラリアなどの英語圏が中心。日本人は「極めて少数」だという。

 左光氏は、これまでクリスタル・クルーズと飛鳥の2つのブランドに経営資源を分割してきたことの難しさについて述べた上で、クリスタル・クルーズ社の事業については「北米市場での経験が飛鳥のブランドを作り上げた」と評価。特別利益の計上についても言及した上で、「赤字には終わらなかったと思う」と総括した。

 今後については「飛鳥ブランドのさらなる発展をめざす」とし、将来的に飛鳥IIと入れ替える新造船については、詳細は明らかにしなかったものの「検討をさらに加速させる」と説明。なお、クルーズのスケジュールなどについては、従来通りの方針を維持するという。

 ゲンティン・グループのゲンティン香港は、1993年に設立されたレジャーおよびエンターテイメント関連企業。日本を含む世界20ヶ国以上で事業を展開しており、アジア・太平洋を拠点とするクルーズブランド「スタークルーズ」を運営するほか、主要株主であるノルウェージャン・クルーズラインなどのクルーズ事業をおこなっている。

クリスタル・シンフォニー
 左光氏はゲンティン香港について、「売却先として申し分ない企業。これまで以上にクリスタル・クルーズを発展させてくれると確信している」と評価。今後のクリスタル・クルーズの展開方針については、「ゲンティン香港次第」としたものの、「そのままの形を維持しながら発展するのではないか」と見通しを示した。ゲンティン香港は新造船などについて、強い意欲を示しているという。