危機後の観光復興を強調、各国の戦略-ITBベルリンより

  • 2012年3月12日

広いスペースを使い、大がかりな展示で注目されるエジプト関連のブース 世界最大規模の観光トラベルマート「ITBベルリン」は3月7日から11日まで、ベルリン・メッセで開催された。9日までは業界関係者のみが入場でき、出足は初日から好調。16万平方メートルもの広大な会場を忙しく行き来する人々の熱気であふれた。

 今回の展示で特に目立つのは昨年、政治的状況の激変や経済危機、自然災害などによって打撃を受けた国々の“復興や安全を強調する”展示だ。とりわけエジプトはオープニングセレモニーのパートナー(スポンサー)となってテーマを仕切ったのをはじめ、展示スペースを大きくとって「エジプトへの旅は安全。今回の革命でエジプトやより自由で開かれた国に生まれ変わった」というメッセージを強く打ち出している。

 特に印象的だったのは、オープニングセレモニーで挨拶に立ったエジプトの人気俳優ハレッド・エル・ナビー氏が、メディアの「エジプトは危険」というネガティブキャンペーンについて明確に批判し、安全さを強く語ったことだ。このほか、同じく政治的に大きな変化があったチュニジアや洪水で大きな被害を受けたタイも、昨年よりも展示スペースを大きくとって“復興”を印象付けようとしているようだ。

富士山や新幹線など、従来からのイメージが目立つ日本ブース  一方、日本に関連したブースは規模も小さく、ブース全体がやや地味な印象。着物を着た女性が抹茶を立てて提供したり、ブースの担当者が法被を着て対応したりするなど、“日本らしさ”のイメージ作りにも新鮮みは少ない。

 現場でバイヤーに対応している人たちに話を聞いてみると、やはり東日本大震災の影響が大きく感じられているようだ。大阪市パリ事務所副所長の大平真他子氏は、「直接ブースに来る人はプロのバイヤーなので、日本の状況についても比較的正確に把握されている。しかし、問題は直接窓口で消費者に対応する人たちが『日本は安全なのか?』という質問に自信を持って応えられない現実」と語る。大平氏がスペインでマーケティングのキャンペーンを実施した際も、その前にスペインのテレビ局が放送したネガティブなドキュメンタリー番組の影響が強く感じられたという。

 ITBベルリンでは、展示の他に毎年数多くのワークショップが実施される。昨年に引き続き、グリーンツーリズムやサスティナビリティに関連したワークショップが目立つが、ソーシャルネットワーキングによるマーケティングや、いわゆるステルスマーケティングへの対応などにも大きな関心が寄せられていた。しかし、今回特に注目されているのは、世界経済の動向や社会的変化、災害と観光業界の対応。いわゆる危機管理に関するテーマが多いことだ。今回エジプトが見せた強いキャンペーン姿勢は、危機管理の一つの在り方として多くの参加者に強く印象付けられたものと思われる。(宮田麻未)